「貿易戦争」より「ニュー・エコノミーでの規範戦争」を

 戦後、これまで欧米中心に長年積み上げてきた経済秩序に対して、中国はデジタル保護主義など国家資本主義をもって挑戦してきている。そういう事態に対する一つの答えが、3月8日にチリのサンティアゴで署名された、米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP11)だ。現状のWTOは160カ国の加盟国の全会一致でしか意思決定できないことから、機動的に動きにくいといった限界も指摘されている。TPP11は、そうしたWTOを補強するものだ。

 ただし、TPPの交渉開始から、既に5年以上が経っている。最近では、データ保護主義や人工知能(AI)、サイバー空間など中国を巡る新たな懸念が浮上してきている。これらの課題へは、TPPだけでは十分に対応できなくなってきている。

 日米欧の三極、さらには豪州なども加えて、データやAIといった「ニュー・エコミニー」での規範作りに取り組まなければならない。鉄鋼問題のような「オールド・エコノミー」で貿易戦争をしている場合ではないのだ。

 コーンNEC委員長は、こうした話し合いをできる相手と見られていた。だが、コーン氏の辞任によりトランプ政権内にこうした議論をできる相手がいなくなることは深刻である。より一層、日本がEUや豪州などとともに、「中国問題」に対処する枠組みを有志連合で主導していくことが重要になっていく。TPP11の署名とコーン氏の辞任という、相反する現実を前にして、ポストTPPに向けての日本の戦略が問われている。

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