中国の対米交渉担当者が急きょ、訪米したワケ
トランプ大統領が鉄鋼輸入規制を発表するまでの経緯を、もう少し詳しく見てみよう。
2月16日にロス商務長官が鉄鋼とアルミニウムの輸入制限をトランプ大統領に提案した時には、4月半ばまでに最終判断されることになっていた。ところが3月13日に鉄鋼労働者の多いペンシルバニア州の下院補欠選挙があることから、トランプ大統領は選挙対策を優先して突如決定を早めた。まさに選挙対策至上主義だ。ホワイトハウスに鉄鋼・アルミ産業の労働者たちを招いて大統領令の署名の場にも立ち会わせて、政治的パフォーマンスまで披露している。
一方、標的とされている中国も、トランプ大統領の政治的パフォーマンスに翻弄された。全国人民代表者会議(全人代)が開幕する直前の今月初め、新体制でキーパーソンになる予定の劉鶴氏が慌てて訪米せざるを得なかった理由もそこにある。
当初、中国は全人代で新体制を固めて、落ち着いてから劉鶴氏を対米交渉のために訪米させたかった。米国側も「4月半ばまでに最終判断」としていたのは、そうした中国の申し入れをロス商務長官が一旦受け入れたからである。だが、トランプ大統領はそうした中国の申し入れを蹴飛ばした。選挙日程が、それを許さなかったからだ。中国にとっては最も避けたいタイミングだったが、受け入れざるを得なかった。
その劉鶴氏との間でも「“取引”が行われた」との噂が飛び交っている。それは、関税引き上げをするならば全ての国を対象にする案を採用するよう、中国が米国に求めたのではないかというものだ。
中国にしてみれば、中国を含む特定国だけを対象に関税が53%以上に引き上げられるよりも、全ての国に対して24%以上の関税になる方がいい。欧州連合(EU)などと連携して、米国を批判することもできる。これと引き換えに、中国は米国に対して、昨年過去最高を記録した対米貿易黒字を大幅に縮小することをコミットした、ともささやかれている。真相は定かではないが、党が貿易もコントロールできる中国ではあり得る取引かもしれない。
もちろん、中国は対外的にはトランプ大統領の決定に反発を表明し、米国からの大豆輸入などでの対抗措置の構えを見せている。だが、これは恐らく、トランプ政権も織り込み済みだ。
日本、EUは除外されるのか?
今後、鉄鋼の輸入制限は対象国と対象品目の交渉が焦点となる。最大の焦点は、EUと日本が対象国・地域に含まれるかだ。先週末、ライトハイザー通商代表と世耕経済産業大臣がともにEU本部があるベルギーのブリュッセルに行き、日米、米欧の個別協議とともに三極大臣会合が行われた。
まず、日本とEUは、それぞれ日米同盟、北大西洋条約機構(NATO)という同盟国であることを理由に、安全保障上の懸念がないことをから、関税引き上げ対象国からの除外を求めた。今後、ライトハイザー通商代表は除外交渉で日本に対して、対米貿易黒字の削減といった要求をしてくるだろう。しかし日本は国家資本主義の中国と違って市場経済だ。あくまでも市場主義、世界貿易機関(WTO)秩序の維持を最優先に筋を通すべきだろう。
さらに、日本が米国に輸出している鉄鋼製品は、自動車用のボルトやナットになる線材、鉄道用のレール、石油パイプライン用の大径鋼管などの高品質品がほとんどである。米国メーカーによって生産されていないものが多く、輸入制限でコストアップの損害を受けるのは米国のユーザー業界であることから、対象品目から除外される可能性が高い。同じ鉄鋼製品といっても、汎用品が中心の中国とは基本的に異なる。米国のユーザー業界と連携して、対象品目にならないように働きかけることが大事だ。
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