単身赴任でも家族と夕食

 品質保証部の日室桂史主任は3年前に転職してきた。当時は家族を福島県に残し、平日は東京で単身赴任。金曜午後4時に東京・日本橋の本社を出ると、7時前にはいわき市の自宅で家族と食卓を囲むことができた。

 現在は家族と同居しているものの、子供は2歳から9歳まで4人いるため、早帰りは妻の負担を軽くする。「夕食前に散歩しながら、子供から学校の話を聞くのが楽しみ」と日室主任は話す。

 アステラスは藤沢薬品工業と山之内製薬による合併翌年の06年頃からワークライフバランスに配慮した制度を拡充してきた。FFはその一環だ。08年度から「金曜は定時前に帰ろう」と呼び掛け、翌年にFFを正式導入。月曜から木曜の勤務時間は午前8時45分から午後5時45分だが、金曜は終業時間を午後4時に1時間45分繰り上げた。

 もちろん日室主任のように制度の趣旨通り家族と過ごす必要はない。独身社員や育児に手がかからなくなったベテランは、趣味や自己研鑽、旅行などに充てられる。日室主任の同僚である西岡ゆかり課長は、午後5時からバレエを習っている。語学習得や資格取得のために学校に通ったり、同僚と食事に出かけたりするなど過ごし方は多様だ。

 月に1度のノー残業デーすら形骸化している企業が少なくない中、なぜアステラスでは「毎週金曜の早帰り」を7割の社員が実践できているのか。

 まず経営陣の関与。FFは産業医から人事部長への助言が契機の一つだった。「十分な睡眠、週に1度の運動、平日の家族との食事がメンタルヘルス(心の健康)には大切」というものだ。当時の人事部長で、FFの旗振り役だったのが御代川善朗副社長。今でも労働時間管理に関する社内研修で登壇する。

<b>金曜午後4時過ぎ、混み合うオフィス出口。最近は半数が午後5時までに退社</b>(写真=的野 弘路)
金曜午後4時過ぎ、混み合うオフィス出口。最近は半数が午後5時までに退社(写真=的野 弘路)

 次に管理職への教育がある。新任マネジャーには部下の健康管理などに関する2日間の研修を義務付けている。一般に残業削減で抵抗勢力となりがちなのが、昼夜を問わず働き、今の地位を築いた上司だ。アステラスでは裁量労働制を取り入れているので、残業時間を減らしても収入は原則減らない。それでも、昨今のワークライフバランス重視の風潮に自分の成功体験を否定されたような気持ちを抱く人もいる。

 前述の日室主任は以前、金曜の午後4時以降も海外とのテレビ会議のため会社に残ることがあった。そんな時、上司が海外拠点のマネジャーにFF制度について説明し、会議時間の調整に動いてくれたという。

 取材当日、品質保証部の部長が席を立ったのは午後4時18分。上司が率先して動かなければ部署全体の早帰りは進まない。

 上司の意識改革は全社的な業務改善において必須だが、出発点にすぎない。「常に手を抜かずメッセージを発信してきた」と安本光朗・人事部部長(制度企画グループ統括)は語る。

 その一つが12年4月に導入した「健康管理時間」だ。オフィスの入退出記録から出退勤時間を、旅費精算システムで出張時の勤務時間を把握するなど、異なるデータを集約して全社員の「実際に働いている時間」を算出。労働基準法より厳しい基準で残業時間を「見える化」し、社員や部門長に注意を促して削減につなげている。

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