自民党のやり方を変える実験です
自民党のホープ、福田達夫氏が語る「小泉世代」再結集の理由
自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長ら若手議員を中心とする「2020年以降の経済社会構想会議」が発足し、3月1日に初会合を開いた。子育て支援の財源として昨年春に「こども保険」を提唱した党の小委員会のメンバーが中心。社会保障制度など中長期の課題について幅広く議論する方針で、小泉氏は「今までの政策策定過程を大きく変える」と意気込んでいる。小泉氏が農林部会長時代に農林部会長代理として小泉氏を支え、この会議の幹事長を務めることになった福田達夫防衛政務官に新たな会議を立ち上げた狙いや今後目指す展開などについて聞いた。
(聞き手は、安藤 毅)
福田 達夫(ふくだ・たつお)氏
衆院議員
1967年生まれ。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、米国ジョンズホプキンス大学高等国際関係学研究所を経て、三菱商事へ。父、康夫元首相の首相秘書官を経て2012年の衆院選で初当選し、現在3期目。自民党で幅広い役職を担い、現在は防衛政務官を務める。(写真:都築雅人)
「2020年以降の経済社会構想会議」が発足しました。「こども保険」の提唱などで注目された党の「2020年以降の経済財政構想小委員会」のメンバーを中心に有志議員30人が派閥横断で名を連ねました。どんな狙いがあるのでしょう。
福田達夫氏(以下、福田):私自身は、この会は自民党にとって試行実験であり、思考実験でもあると考えています。自民党の良さは、ある時までに期限を切って目の前の課題に答えを出すことです。
それでやってみて、違うとなれば改善をしていく。理想を追いつつも、現実的に党の政務調査会の各部会で議論し、1つひとつ矢継ぎ早に答えを出し、党の政審・総務会で了承を経て政府の政策に反映していく。そうした方式が受け継がれてきました。
長期的視点で選択肢を議論したい
そうした方式は決して間違いではないのですが、国際構造も、日本の社会構造も大きく変化する中、目先の問題を処理するだけでは物事の本質から外れてしまうかもしれません。日々物事が動いている中でも、もう少し長期的視点で、物事を深く掘り下げて考えていく必要があると思っています。
あるいは、今現実に見えているものではなく、原因にまでさかのぼって過去の経緯や歴史も踏まえたうえで、中長期的に「今後、こんなやるべき政策があるだろう」という議論をしていきたいのです。様々な可能性を考え、今の政策とは違う方向性や選択肢の議論もしておかなければならないでしょう。
そうする中で、例えば「今年はこの政策を党の政策プロセスに入れ込んでいこう」、あるいは「これは来年に回しましょう」、といった流れができていくかもしれません。そういう議論の場が必要であるという問題意識を自民党の我々の世代は以前から持っていました。
そこで、経済財政構想小委員会メンバーを中心に集まろうと?
福田:私もあの小委員会に参加していましたが、自民の部会形式ではなく政策提言をまとめ、一応形の上である程度党としての施策や政府の政策に反映できたという成功体験があります。それに基づき、そもそも論もしっかりやっていこうというのが会議を立ち上げた大きな理由ですね。
総裁選は全く関係ない
橘慶一郎衆院議員が会長に就き、小泉さんは会長代行に。福田さんのほか、村井英樹さん、小林史明さんら小泉さんに近い議員が顔をそろえたことで、「秋の総裁選をにらんだ動き」との見方も出ていますが?
福田:あ、それは明確に否定しておきます。総裁選なんて全く関係ありません。
先程も述べたように、目の前の問題を処理していく、答えを出していくというやり方に飽き足りない我々のような若手政治家の中では、党ではなかなか議論できないテーマに関する勉強会を立ち上げ、深く追求していこうという動きが相次いでいます。
個々の思いを実現していくためにもこうした場作りが重要だという共通認識があり、それなら始めてみようということになったのです。
社会保障や雇用問題など中長期的なテーマを中心に論じていくのでしょうか。
福田:そうしたテーマも入ってくるのでしょうが、方向性は決めていません。目的を持ってそこへ向かって行こう、ということだと、党の部会や調査会などと変わりませんので。
初会合で、まずはメンバー1人ひとりの問題意識を確認しました。そこで、次回からは平成時代に起きた政治改革やバブル崩壊後の不良債権問題に追われた経済状況などを踏まえながら、今どういった局面に置かれているのかといった時代背景について頭を整理しておきたいと考えています。
そのうえで、有識者などからこの国の将来像などに関する示唆もうかがい、IT(情報技術)など技術の未来図なども考慮に入れながら中長期の視点に立った議論を深めていく。そんなイメージだろうと思っています。どこかの時点で議論の成果を提言のような形で出していくことになるでしょう。
小泉さんの発信力とセットになることで相乗効果が期待できそうですね。
福田:我々のような中堅・若手1人だけでは通りにくいことが多々あります。でも小泉部会長(編集部注:農林部会長時代の呼び方を続けている)の政治力に加え、仲間が塊であることが一つの政治力となって、我々の思いを党の政策プロセスに乗せていくことができる。そうした効果もあるはずです。
政策とそれを実現する政治力が両輪
政治の世界では、政策を学び、作ることとそれを党の政策プロセスなどに反映して実現していくための政治力の2つが両論となります。この2つを模索していこうという意味で、最初に述べたように思考と試行の実験になると考えているのです。
そうした過程の中で、毎年1年単位で政治課題を処理していく、というだけではなく何年もしつこく課題を追い続けるという仕事の仕方もできるのかなと。霞が関の行政はだいたい2年で担当が代わります。党のほうが長くこの問題を知っているといった事態が頻繁に起きてくると、本当の意味で立法府と行政との関係の転換になり得ます。
党で本格的な政策を打ち出し、しかも政治力を背景に実現にこぎ着けていくという集団ができていけば、そこで政策を作りたいという人材が集まり、今までに無かったような政策シンクタンクができていくかもしれません。これはちょっと妄想的ですが。
小泉さんは初会合後、「今までの政策策定過程を大きく変えたい」と話していました。
福田:部会長の言葉で言えば、この会議は商品開発会議や企画開発会議ということになるのでしょう。簡単に言うと、会議で「これはいいね!」となったテーマについて、みんなで今期はこれを応援しよう、施策にまとめていこうとなり、さらにそれを実現していくための政治力をつけていく。部会長はそうした意味でそのように発言しているのだと思います。それを難しく言うと、さっき私が話したようなメカニズムになります。
小泉氏は「希有な存在」
ここ数年で関係を深めた政治家・小泉進次郎をどう評価していますか。
福田:間違いなく、今の国会議員の中で希有な存在です。1回生からスターであり、期待をちゃんと受け止めるだけの技量があり、勘違いしない。足りていないことも分かったうえで、勉強するし、届かないところは人に頼る。バランス感覚が優れています。
ちゃんと大きくなっていく人であることは間違いありません。今回の会議もそうですが、そういう政治家に仕事を頼まれることこそが、一緒にやろうと思う一番の原動力になっています。
小泉さんは2009年の自民党が大敗した衆院選で初当選し、自民党というだけで石を投げられるような経験をしました。福田さんは2012年の衆院選で初当選し、いわゆる「魔の2回生」と呼ばれる世代に属しています。でも、この会議のメンバーのように経験を積み、実績を残してきた議員も目に付きます。
福田:当選4回の小泉部会長なども含め、我々は政治家経験がまだ浅い分、社会常識があり、つらい経験もしてきたという意味で根性もあります。永田町や自民党の仕組みも分かってくる中で、自分の思いを形にしていきたいという意欲も強い。あとは議論し、活躍していく場があればということです。
これからさらに経験や政治力を身につけていくと、我々の世代の政治家は、実はそれほど国民を失望させずにすむのではないかと思っています。
かつてのように、右肩上がりの成長で税収をどう配分するかといった分配型の政治から、少子高齢化の進展などでどう負担を分かち合うのかといったことなどに政治の重点も変化してきました。
この会議は30代の議員も多いのですが、彼らはあと30年から40年も政治に携わる可能性があります。政治と国民の関係を再定義しながらこどもの世代にまで責任を持って政治を進めていく。そうしたメッセージが世の中にうまく伝わっていけば、将来に対する希望や国民の安心感にもつながっていくのではないでしょうか。
福田さん自身は群馬県が地盤ということもあり、一貫して中小企業政策や地域活性化への関心が強いですね。
福田:この国の本当の力は地域にあると考えています。地域の皆様が生きがいを持って、安心して働けるから地域は輝く。輝く地域が集まってこそ、この国の真の輝きがあると思います。
防衛政務官としての仕事はもちろん、中小企業政策、働き方改革、そして地域の魅力をしっかりと引き出す地域興しといったこれまでの関心領域をさらに深掘りして活動していくつもりです。
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