私も東北出身で、上京するまではTBSラジオも文化放送もニッポン放送も直接は聞いたことがありませんでした。ただ地元にいながらPodcastでラジオの面白さを知り、いまではradiko経由で毎日ラジオ番組に耳を傾けています。

入江:それは、まさにPodcastで新しいリスナーにリーチできたということですね。radikoも、当初の狙いは新たなリスナーと接触機会を持つこと。なかでも高層ビルが立ち並んで電波の届きにくい都市部でもラジオを聞いてもらいたいと始めたサービスでした。

 radikoの開始意義は大きかったですよ。「若者のラジオ離れ」とよく言われますが、これって「若者がラジオを聞かなくなった」のではなくて「若者がラジオの存在自体を知らなくなった」のだと思うのです。私たちがどんなに「ラジオを聞いてください」と呼びかけても、そもそも「ラジオって何?」というのが最近の若い世代の本音ではないでしょうか。

 そういう意味で、radikoがアプリの一つとしてスマホ画面に入り込んだことで、少なくともラジオの存在そのものは認知されるようになりました。これで「さあ、聞いてもらえる番組を作れるかどうか」というスタートラインには立てたのです。

 2016年秋には「タイムフリー」という機能も追加しました。過去1週間の放送を自由に聞き返せるというもので、気に入ったコンテンツはSNS経由でシェアすることもできます。我々の世代は好きな番組をカセットテープに録音して次の日学校で貸し借りしていましたが、そういったいわゆる「ラジオの楽しみかた」を、現代のネットの文脈に合わせるようにしたのです。

なるほど。

入江:しかし、radikoはあくまで「本放送で流したコンテンツをネットでも」という性格のものでした。ラジオ放送で流れた広告がradiko経由でもそのまま流れるわけですから、スポンサー企業から別枠で広告料をいただくことはありませんでした。ラジオクラウドでは、ネット配信専用の広告枠を初めて本格的に販売することになりました。

消費者サービスではなくて、きちんとした「事業」として独り立ちさせていくということですね。

入江:そういうことです。

ラジオクラウドでは、再生前にリスナーの好みに応じた広告が流れる(写真はアプリの画面)
ラジオクラウドでは、再生前にリスナーの好みに応じた広告が流れる(写真はアプリの画面)

「ターゲティング型」は広告本数あってこそ

「日経ビジネス」のような雑誌を含めどんなレガシーメディアにも共通の課題があります。それはネット対応にはカニバリ(食い合い)のリスクが付きまとうことです。ネット配信が便利になればなるほど、AMやFMを通じた本放送を聞いてもらえなくなる恐れがあるのではないですか。いくら広告料が減ったとはいっても、売り上げ規模としては本放送のほうが大きいですよね。

入江:それはもちろんそうです。ただ、radikoのタイムフリー機能でリスナーが減ったかというと、そういうことは決して無かったんです。私たちも心配はしましたが、リアルタイムで聞いている人の数はそのままで、そこにタイムフリー経由のリスナー数が15%くらい上乗せされました。これまで放送時間が合わないとか色々な理由で聞けなかった人が、新たに聞いてくれたのです。

リスナーが増えたのなら、あとはいかに収益につなげるか、ですね。

入江:はい。ラジオクラウドでターゲティング型の音声広告がうまくいくかどうかを検証し、今後はradikoでの導入も業界をあげて検討することになると思います。もちろん課題は多いですよ。ターゲティング型の広告っていうのは、リスナーの属性に合わせて流し分けるわけですから、そもそも広告の種類や本数が揃っていないとあまり意味がない。残念ながら、現時点ではそれだけの広告を出稿していただけていません。

ネット活用において、テレビよりラジオが先行するのはどうしてですか。

入江:やはり身軽なんですよ。権利処理も何もかも。それから、ラジオは業界が団結しないとメディア間の競争に勝っていけないとの危機感がある。テレビはまだそれぞれ立派なメディアとして成立していますが、ラジオはもうとにかく全員が心を一つにしなければ生き残れないんです。

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