リベラル、マイノリティーも抑えるクリントン氏

 クリントン氏の圧勝は、マイノリティー層、特に黒人層の強力な支持に支えられている。夫のビル・クリントン元大統領が州知事を務めたアーカンソー州、さらにアラバマ州、ジョージア州、テネシー州などでの勝利は黒人票の貢献が大きかった。クリントン氏が、当時のオバマ上院議員と党候補指名を競って、どうしても黒人票を勝ち取れなかった2008年とは大きな違いである。

 サンダース氏は、地元バーモント州に加え、オクラホマ、ミネソタ、コロラド3州でも勝利を収め、7月の党大会まで予備選を戦う意向だ。ただし、リベラル色の強いマサチューセッツ州すらクリントン氏に奪われ、支持層の拡大に成功していない。

進む、「現実的な国際派」の弱体化

 2016年の米大統領選は、従来は想定できなかったアウトサイダー候補の躍進が注目を浴び、彼らの過激な発言が報道の見出しを飾る。その示唆するところは米国政治における「現実的な国際派」の弱体化だ。これは、日本をはじめとする米国の同盟国にとって大きな懸念材料である。「すべての政治は地元から」という。そうした米国の「地元」事情が、すぐにでも日本に影響を与えかねない案件の一つが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)である。

 TPPは日本、米国を含むアジア太平洋の12カ国が参加する自由貿易協定だ。昨年10月に交渉が妥結し、今年2月には署名が行われた。署名国の国内手続きが済み次第、発効する。規定により、日本と米国の批准が不可欠となっている。2017年1月に退任するオバマ大統領とすれば、約5年半を費やしてまとめ上げたTPPの批准を見届けて、政権の成果としたいはずだ。

 そのためには、TPP実施法案が連邦議会にて可決される必要がある。だが上下両院を野党である共和党が押さえている。与党である民主党議員は労働組合の意向もありTPPに反対だ。製薬、金融、タバコ業界など経済界の一部までもが合意内容に異議を唱えており、批准の目途が立たない。

 さる2月2日、オバマ大統領は、議会共和党のリーダーであるミッチ・マコネル上院院内総務、ポール・ライアン下院議長を招き、当面の政策課題について意見を交換した。この席で、TPP審議のタイミングについて合意することはできなかった。2月13日に亡くなったアントニン・スカリア米最高裁判事の後任指名をめぐっても、大統領と議会共和党は対立しており、TPPをめぐる政治環境は厳しくなるばかりだ。

TPP賛成では候補になれない

 この環境が続けば、TPPは次期大統領と議会に委ねられることになる。TPPをめぐる候補者の発言を追っていくと、TPPを推す「現実的な国際派」であることは彼ら・彼女らにとって重荷であることがわかる。

 国務長官として、オバマ政権のアジア回帰政策を主導していたクリントン氏は、TPPを在任中は評価していた。「TPPはこれからの貿易協定の基準点となる」。しかし、TPP合意が発表された直後の2015年10月、TPPは自分が求める水準に達していないとして不支持を表明。協定文が公表される前の段階で反対を表明したのは、TPP反対を掲げる労組への同調であったことは間違いない。

 今年2月、クリントン氏はポートランド・プレス・ヘラルド紙に、自らの通商アジェンダを寄稿。不公正貿易の監視を強化する仕組みを整備するとともに、企業が米国へ回帰するよう図り雇用空洞化を止める、とした。さらに、世界貿易機関(WTO)が中国を市場国として認定することに反対し、日本などアジア諸国による為替操作に対して「報復関税などの措置を検討すべき」としている。TPP反対については、米国が雇用、賃金、そして安全保障上のメリットを享受できる見込みがないからだ、と改めて弁明した。

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