伊勢丹新宿本店の別館を全面改装して、2003年大々的にオープンしたメンズ館。この立役者とも言われた大西氏にとっては、新宿本店で手がけたリニューアルは、自らの力を社内外に示す好機だったはずだ。だが結果は、伊勢丹HD全体の業績を押し上げるような効果は発揮できなかった。2014年3月期の新宿本店の売上高は、2654億円と前の期比で12.1%増となったが、翌2015年3月期は2585億円と2.6%減。予想の4.9%プラスの2711億円を大幅に下回る結果となった。
手広く広げた地方・郊外店のリストラが遅れる中で、頼みの旗艦店も落ち込んだことによって、三越伊勢丹HDの危機はより明確になった。
訪日外国人による「爆買い」が沈静化したことは、少なからず百貨店各社に影響を及ぼしているが、三越伊勢丹HDは他社と比べて回復力が乏しかった。三越銀座店内に1年前オープンした市中の空港型免税店「Japan Duty Free GINZA」も苦戦している。消費税だけでなく関税なども免除される空港型の免税店が、沖縄県以外で市中にオープンするのは初めてだった。日本空港ビルデングなどとの共同出資で、三越銀座店8階に開業したが、当初目標を大幅に下回る結果になっている。初年度133億円の売り上げ目標に対し、売上高は44億円、営業損益は20億円の赤字となる見込みだ。
伊勢丹と三越の統合10年で岐路に
各社が不動産事業などを一気に広げる中、「百貨店であり続ける」「(衣料品不況の)こんなときだからこそ衣料品を改めてしっかりやっていきたい」などと話し、百貨店の「盟主」としてのこだわりとプライドを見せてきた大西社長。その一方で、ここに来てライバル百貨店とは違う形で、サービス業態を軸とした多角化を進めていった。2015年10月にはブライダル事業のプラン・ドゥ・シーと共同出資会社を設立。2016年4月には、ポイントサービスなどを軸に、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とも共同出資会社を設立した。M&Aも積極的に推し進めた。2016年12月には大手エステ会社、ソシエ・ワールド、2017年2月には高齢者向け旅行会社ニッコウトラベル買収を発表している。
いわゆる「コト消費」強化を進める一方で、社内の人材育成が進んでいたかは疑問が残る。「伊勢丹は、歴史的にもバイヤーが多い会社で、バイヤーこそが花形。商品のことは当然よく知っているが、そこにサービスや『コト消費』といわれて、どれだけついてこられるのか」(証券アナリスト)と、三越伊勢丹の急激な「変化」を危惧する声もあった。
大西氏の退任の背景として、取締役など幹部の間で、かねて不協和音があったことを指摘する声は多い。業績悪化が鮮明になる中で、社内の摩擦は抑えきれないところまで来たのかもしれない。三越と伊勢丹が経営統合したのは2008年。約10年を経て、業界の盟主は岐路に立っている。
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