2016年の輸入車の販売台数で、独フォルクスワーゲンの「ゴルフ」が初めて首位から転落した。排ガス不正問題の影響により、信頼性を特に重視する日本の消費者が離れた。その間隙を突きトップに立ったのが、独BMWの「ミニ」。快走のワケとは。
新車効果もあって「ミニ」の国内販売は好調が続く(写真=Bloomberg/Getty Images)
「正直、今でも販売はかなり厳しい。ここまで影響が続くとは…」
独フォルクスワーゲン(VW)の国内販売店の担当者は肩を落とした。
輸入車販売台数で、VWの主力車「ゴルフ」が首位から陥落した。日本自動車輸入組合によれば、2016年の外国メーカー車のモデル別登録数で、独BMWの小型車「ミニ」(2万4548台)がトップに立った。
ゴルフ(2万2802台)が首位を譲ったのは、1988年の調査開始以来初めて。3位にはメルセデス・ベンツの「Cクラス」(1万7760台)、4位にはBMWの「3シリーズ」(1万1947台)が続いた。
不正の影響、日本で根強く
ゴルフ首位陥落の理由の一つは、2015年に発覚したVWの排ガス不正問題だ。グローバルで見れば、VWがこのスキャンダルで受けた販売面での影響はほとんどない。VWグループ全体の2016年の世界販売台数は1030万台で過去最高を更新。トヨタ自動車を逆転し、トップに躍り出た。
しかし、日本国内に限定すれば不正の影響がもろに出た格好だ。2016年のVWの国内登録台数は前年比13.8%減の4万7234台。主力車種ゴルフも10%以上台数を落とした。不正の温床となったディーゼル車を販売していないにもかかわらず、不正の影響が最も出た市場の一つとなった。
独フォルクスワーゲンの排ガス不正の影響は特に日本で顕著だ(写真=ロイター/アフロ)
なぜか。VW日本法人のティル・シェア社長は「日本国内でのVW車の保有台数は65万~66万台。リピーターが多い市場で、(不正によって)シンパシー(共感)の裏返しが顕在化した。ショールームの来場者がかなり減った」と言う。信頼性を重視する日本の消費者の特徴が出たという見方だ。
VW日本法人は、昨年5月に「信頼回復キャンペーン」として実質的な値引きなどを実施したが、顧客を戻し切ることはできなかった。
新型車効果も薄れた。現行のゴルフが日本で発売されたのは2013年。欧州では2016年秋に新型ゴルフが発売されており、消費者の一部が買い控えに走ったとみられる。富士重工業の「インプレッサ」やマツダ「アクセラ」など、国内メーカーで強力な競合モデルが相次いだことも低迷の一因だろう。
一方のミニは、BMW傘下の新ブランドとして再出発した2001年以降、「とがった」クルマから「普段使い」できるクルマへと進化してきた。代名詞とも言える3ドアの「ミニ・クーパー」の印象が強いが、5ドアやSUV(多目的スポーツ車)などの派生車種を次々に投入。2000年代半ばからの約10年で、ミニの世界販売台数は倍増した。
ミニの販売台数は10年で1.5倍に
●「ゴルフ」と「ミニ」の国内新規登録台数の推移
ブランド、売り方も変革
中でも日本市場は好調だ。東京都の臨海部に位置し、世界有数の広さを誇る「BMWグループ東京ベイ」。2月中旬の週末、ショールームの約3分の1を占めるミニの展示コーナーは、来店客でごった返していた。
「国産ミニバンからの買い替えを検討している」(40代男性)、「BMW3シリーズから乗り換える」(50代男性)など声は様々。派生車種の拡大により「3ナンバー」のモデルが増えるなど、以前の「ミニ=小型車」といったイメージは薄れている。輸入車だけでなく日本車からの買い替えも多く、顧客層が広がっている。
2016年は新車効果も後押しした。国内向けにターボエンジンを積んだ「クラブマン」などの新型派生車種を投入。クラブマンだけで登録車の3割程度を占めたとみられる。ただし、新車だけに目を奪われていると本質を見誤る。
「我々は『従来のミニらしさ』から卒業した。時代に合わせて常にミニは変わり続けている」。BMW日本法人のフランソワ・ロカ・ミニ本部長はこう語る。
2015年9月、ミニはグローバルでコーポレートアイデンティティー(CI)を変えた。それまでの「FUN(やんちゃさ)」から「本物らしさ」へ──。カタログは従来の黒を基調としたデザインの「製品紹介」から、ライフスタイル雑誌のような体裁へ変えた。
ディーラーの内装を変え、タブレットを使った接客も始めた。日本法人では、全国の営業担当500人を対象に、一流ホテルなどを訪れて接客やブランドの考え方を学ぶ研修を初めて開いた。
「(販売台数などの)数字が結果を示している」(ロカ本部長)。車種構成の広がりに加えて、時代に合わせたブランディングの効果が逆転につながった。
とはいえ、両モデルの差はわずか。VW日本法人のシェア社長は「2017年は反転攻勢の年」と宣言する。「(排ガス不正の)影響が完全になくなったとは言えないが、販売店への来場者は上向いている。顧客の嗜好をもう一度理解すれば、台数は付いてくる」。今年6~7月には、欧州で発売した新型「ゴルフ」を、下半期にはEV(電気自動車)の「e-ゴルフ」を発売する予定だ。
一方のミニも2月23日、これまでで最も広い車内空間を持つ「ミニ・クロスオーバー」の発売を開始した。いずれも両ブランドの主力車種。商品はもちろん、アフターセールスなどの満足度や、ブランドの信頼性を重視する日本市場で、改めて輸入車の意義が問われる1年になる。
(日経ビジネス2017年2月27日号より転載)
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