機械に使われる人間になってはいけない

 「このままでは技能者が機械に使われるただの人になってしまう。自分が先輩を超える。自分が先輩を超えたら自分を超える次の人を育てよう」。河合氏は社内で熱心にこう訴えかけて、新たな人材育成の仕組みである「高技能者育成」が始まった。

 各工場から35~40歳程度の優秀な人材を集めて1年間特別に教育して高技能者として徹底的に鍛える。例えば、2015年12月にフルモデルチェンジしたハイブリッド車「プリウス」の生産を立ち上げた際には、複数の工場から組み付けが得意な5人の技能者を集めて、トヨタの新しいクルマづくりの設計思想である「TNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャー)」に対応したドアラインを担当させた。

 「ドアの組み付けラインを5人でゼロから考えてほしい。全責任を君たちに取ってもらう」と告げて担当させたという。選抜された5人は百戦錬磨で自信を持っていたが、TNGA対応の新しいラインを立ち上げるためには、それぞれのメンバーに足りないさまざまなスキルが見つかった。短期間でラインを作りこむにはどうやればムダなくできるのかを徹底的に考えさせて、生産性の高い組み立てラインを実現した。

 工場間の垣根を越えて、優れた技能者を育成するのは、グローバル生産をにらんでいるからだ。トヨタには世界28カ国に53カ所の製造拠点がある。「カローラ」や「カムリ」「RAV4」など世界各地の複数の拠点で製造する車種も多い。

 しかし新興国と先進国では技能者のレベルに加えて、造り方や自動化比率にも違いが大きい。そんな中で日本の生産現場の人材が海外の支援をする必要がある。そこでは口先だけの技能者では許されない。高いレベルの技能がないと環境が違う世界の工場で教えることができないからだ。

 以前は1つの工場がマザー工場となって海外の子工場を支援していたが、多様な車種をまたいだ部品の共通化が進むと、世界各地の工場を同時並行で支援する必要が出てくる。このため多数の工場を横断する形で、優れた人材とその人が持つ技能をリスト化し、状況に応じて国内外の他の工場を柔軟に支援できる体制を作ろうとしている。