「機械と人間の両方のレベルアップが欠かせない」

 工場を進化させるには機械と人間の両方のレベルアップが欠かせない。「自動化されたラインよりもさらに高いレベルの人材を育てないとものづくりは進化しない。だから人間の技能レベルもどんどん伸ばさないといけない」(河合氏)という考えに立ち、生産プロセスの改善に取り組んできた。

 こうした経験を積んできた河合氏は、高い技能と現場での指導力を買われて、本社工場の鍛造部部長、同副工場長を経て、2013年にトヨタの技術の最高職である技監に就任。2015年には工場統括の専務役員に就いた。技監になって以降は全社の製造現場における人材育成に力を注いできた。

 「ものづくりでは原理原則や過去からの進化の過程を知ることが大事だ」というのが河合氏の信念だ。しかし工場の現場を改めて見渡すと、自動化が進んだ結果、人間が手でやる作業がなくなっていた。そこで塗装や組み立てや機械加工などで自動化されていた工程にあえて手作業ラインを設ける取り組みを進めた。

 時代に逆行するような動きだったが、現場の反発を恐れずに推進した。

 技能職が持つスキルレベルも検証。トヨタには40時間程度かけて学ぶテキストなどを含む教育制度は充実していたが、知識だけではない技能の教育に課題があると感じた。「もっと高いレベルの匠の人間を作らないといけない」と考えた河合氏だったが、実際にどう教育すればいいのかは模索が続いた。

 「この工場で組み立てが一番うまい人は誰なのか」「困ったり、問題が起きたりした際に力を発揮する“神様”は誰なのか」。さまざまな製造現場でこう問いかけたところ、高いスキルを持つ技能者には定年間近の人ばかりが目立った。

 2番目にスキルがある人のレベルを確かめるとトップの人の8割くらいの水準だったりする。トップクラスの技能者が2~3年で定年を迎えて、次の人材が成長しないままだったらどうなるのか。背筋が寒くなるような状況だったという。