工場の現場で働く技能職の出身者が初めてトヨタ自動車の副社長に就任する──。トヨタの4月1日付人事の目玉の一つが工場統括の専務役員である河合満氏の副社長就任だ。有名大学卒の経営幹部が多いトヨタにおいて異色の人事であり、河合氏への関心が高まっている。2016年12月に実施した、「日経ものづくり」2017年1月号特集「トヨタ 止まらない進化」の取材をベースにその人物像に迫る。

 河合氏は中学卒業後にトヨタの企業内訓練校であるトヨタ技能者養成所(現トヨタ工業学園)で学び、「カローラ」が発売された1966年にトヨタ(当時はトヨタ自動車工業)に入社。以来半世紀以上にわたりトヨタの工場で一貫してものづくりに携わってきた。

 当時のトヨタは愛知県豊田市の本社工場と元町工場の2つしかなく、地方の小規模な自動車メーカーに過ぎなかった。クルマ生産の工程はほとんどが手作業で「溶接も鍛造も全て手打ちでやっていた」(河合氏)という。

 最初に配属されたのは鍛造部。赤く熱された鉄をハンマーで叩いて加工する仕事で、中世から続く“鍛冶屋”の延長線のような世界だった。個人の技能がダイレクトに製品の品質に反映される。そんな仕事に河合氏はほれ込み、金属加工の技を磨いた。

副社長に就任する河合満氏

 ちょうど高度経済成長期に突入していた日本ではモータリゼーションが加速。瞬く間にトヨタは大手メーカーへと成長を遂げた。同時に急速に進んだのが工場の自動化だ。河合氏はこのような工場の自動化を、現場のリーダーとしてずっと支えてきた。

 「まさしく匠の技能を形式化し、標準化して自動化してきた。さまざまな工法を人間が知恵や工夫を入れて進化させてきた」(河合氏)。ものづくりの原点は手作業で、人間の技能と新しい技術が常にスパイラルアップしながら新しい技法へと発展する。ロボットや機械が自分でいい方法を編み出すわけではないからだ。

 例えば、溶接工程のロボットは人間が教えた通りに作業する。スキルが低い人が教えれば、そのレベルでしかできない。しかし溶接コンクールで日本一の技能者が教えるとロボットの作業レベルも上がるという。