「個人としても企業としても、きちんとありたい。現経営陣として、お客様をはじめとする当社のステークホルダーの皆様にお詫びし、きちんと『けじめ』をつけたい」
2018年3月2日にスバルが開いた社長交代の記者会見。現社長兼CEO(最高経営責任者)の吉永泰之氏は、17年10月に発覚した完成検査不正の問題が今回の人事に大きな影響を与えていることを明かした。6月の株主総会で承認が得られれば、吉永氏は代表権のある会長に就き、取締役会長の近藤潤氏、代表取締役専務の日月丈志氏、取締役専務(製造部門担当)の笠井雅博氏の3人が退任。中村知美専務執行役員が社長兼COO(最高執行責任者)に昇格する。
今回の人事は、「不正があったから社長を交代する」という短絡的な結論ではないようだ。というのも吉永氏が社長交代を決めたのは不正が発覚する直前の9月。加えて、社長を譲った後も吉永氏はCEOを兼務するため、実質上のトップに変更はない。つまり、今回の社長交代人事は「予定通り」だったことになる。
不正のけじめを誰の目にも分かりやすく付けるのであれば、吉永氏も他の3人と一緒にすっぱりと経営から身を引くのが自然だろう。だが、そうはしなかった。「(退任する)4人で責任の取り方を話し、今の案に最終的に至った」という。
現経営陣はなぜこの結論に至ったのか。背景には、企業規模が決して大きいとはいえないスバルならではの事情も関係していたようだ。
写真撮影では、現社長の吉永氏が新社長となる中村氏に中央の立ち位置を譲ろうとする場面も見られた
一人では生き残れないスバル
自動車産業は今、「100年に1度の大変革期」(トヨタ自動車の豊田章男社長)と言われる激動の最中にある。トヨタのような大手ですら「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアサービス、電動化の総称)への対応に悪戦苦闘している。企業規模がトヨタの約10分の1のスバルが、単独でこの時代を生き抜くのは難しいと言わざるを得ない。
会見で吉永氏自身もこの点に触れている。「中規模より小さい企業規模の自動車会社には、大きな会社とのアライアンスが大事になる。トヨタとの関係は大事にしたい」
吉永氏が完全に退くことができない理由の一つに、このトヨタとの関係があると考えられる。吉永氏は、経営企画室に所属していた2005年、トヨタとの提携を取り付けた立役者の一人といわれる。2011年に自身が社長に就任してからも章男社長と親交を深め、翌年にトヨタと共同開発したスポーツカー「SUBARU BRZ」「TOYOTA 86」の発表にこぎつけた。
この日、吉永氏がいつまでCEOを兼務するかの明言はなかった。だが、スバルが激動の時代を生き抜く方向性が付くまでは、新社長兼COOに就任する中村氏の伴走をするつもりのようだ。吉永氏が社長に就任した時もCOOの兼務で、当時の会長がCEOを務めていた。
「役員会議でも話したが、ツートップのようになるつもりは全くない。中村さんに権限をどんどん渡して、邪魔にならないようにしたい」(吉永氏)
トヨタと手を組みながらも次世代カーでどこまでスバルらしさを維持できるか。その成否は、ここ数年の新旧トップ交代にかかっていると言えそうだ。
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