アマゾンは悪者なのか

 ヤマトを中心とする物流会社の労働負荷が強まる中、宅配個数を急増させているネット通販会社への批判が強まっている。「近所で手軽に買えるような品物までネットで注文し、宅配ドライバーの負荷が高まっている」「『送料無料』と宣伝し、追加料金をとらないことが、再配達を増加させる原因となっている」などだ。2月22日、日本記者クラブの会見に出席したアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長には、宅配の窮状について記者からこうした声を代弁する質問が飛んだ。

 それに対して、チャン社長の回答は想定の範囲内だった。「宅配業者と緊密に連携している。イノベーションで解決するための投資をしていきたい」。あくまで物流会社との契約で決めるという立場で、新たな抜本策を講じる姿勢は示さなかった。

 ヤマト関係者は「アマゾンとは毎年、料金の交渉をしている」と話すが、単価の下落基調を覆すまでには至っていない。現場の作業負荷の増大や、単価の下落を招いてきたのは、ヤマト自身の経営判断の結果でもある。

 シェアか利益か、消費者の利便性向上か社員の負荷低減か──ヤマトはどちらを選択するのか。すべてを満足させる解はなく、中途半端な判断を下せば、今の構図に早晩戻ってしまうだろう。宅配便で5割近いシェアを築いた同社のビジネスモデルが岐路に立っている。

「アスクル後」、防火対策でコスト増も
<b>アスクルの岩田彰一郎社長は火災現場の前で謝罪した</b>(写真=共同通信)
アスクルの岩田彰一郎社長は火災現場の前で謝罪した(写真=共同通信)
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 人的資源にひずみが出たのがヤマトなら、設備の課題が表面化したのはアスクルである。岩田彰一郎社長は2月22日、大規模火災に見舞われた物流センター「アスクルロジパーク首都圏」(埼玉県三芳町)で深々と頭を下げた。「関係者の皆様に多大なるご迷惑、ご心配をおかけした」。そう語る岩田社長の背後には、稼働からわずか3年半ながら、消火のために穴をいくつも開けられた建屋の変わり果てた姿があった。この日に消防当局は鎮圧を発表したが、それでも周囲は焦げついた臭いが漂っていた。

 アスクルは文具メーカー、プラスのカタログ通販部門が独立して生まれた会社。設立から20年、カタログ通販という事業モデルに限界が見え始めるなか、アマゾンにも楽天にもないサービスを目指して始めたのが消費者向けのネット通販サービス「ロハコ」だった。

 「物流を制するものがネット通販を制する」。そう語る岩田社長は、2012年にヤフーと資本提携して得た330億円の大部分を物流機能の拡充にあててきた。ロボットによる自動ピッキングライン、荷物の量に応じて段ボールの大きさを変えられる最新鋭装置──。2013年以降、アスクルは埼玉県のほかにも横浜市、福岡市で同様の物流センターを稼働。今年夏には大阪府吹田市でも新たな施設が完成する予定だった。

 ソフト面の投資も進めていた。ロハコで一部地域向けに提供していた配送サービス「ハッピー・オン・タイム」。配送時間がユーザーに30分単位で知らされることが特徴で、配送車が近づくと到着10分前にもう一度通知が届く仕組みを開発。同サービスの再配達率は2.7%と、日本の物流会社の平均である2割を大きく下回っていた。

 構造的な疲弊が指摘される日本の物流業界にあって、アスクルは果敢な投資で最新鋭の設備・IT投資を進めている会社だった。だからこそ、今回の火災が業界に与える衝撃は大きい。

 物流倉庫を運営するある中堅企業の経営者は「これはアスクルだけの問題ではない」と漏らす。「スプリンクラーや防火シャッターなど、法定基準を満たして設置していた」(アスクル)となれば、今後は設置だけでなく運用をめぐる法改正も求められそうだ。そうなれば、物流コストがかさみ、そのコストを削るために物流現場の負荷はさらに高まりそうだ。

(日経ビジネス2017年3月6日号より転載)

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