変わるアライアンスの姿

 日産は2010年に独ダイムラーと戦略提携を結び、2016年には三菱自動車に出資した。グループ全体で「1000万台クラブ」の仲間入りが間近に迫り、ゴーン氏は自動車産業における「アライアンス巧者」として存在感を高めている。

 しかし、決して安泰ではない。自動運転や「つながるクルマ」などの技術革新に対応するため、異業種とのアライアンス構築が急務になっている。ゴーン氏は本誌などとのインタビューで「従来の戦いは続くが、新しいモビリティー(移動体)を予想した新しいアライアンスが続くだろう」と話していた。

 ゴーン氏の社長退任発表から間もない2月28日、ルノー・日産連合は欧州最大の公共交通機関を手がける仏トランスデブと無人運転車を使った交通システムの共同開発で合意。既に「つながるクルマ」では米マイクロソフトと、車載カメラではイスラエルのモービルアイと共同開発を始めており、異業種との連携を強化している。

 ただし、出遅れている分野もある。他社がこぞって秋波を送るライドシェア大手との提携は実現していない。

 トヨタ自動車は2016年に米ウーバーテクノロジーズに出資し、米ゼネラル・モーターズ(GM)も米リフトに出資を決めた。異業種を巻き込んだ提携の「大乱戦」が続く中、日産がアライアンス巧者でい続けられる保証はなくなっている。

 日産に技術的優位性があったEV(電気自動車)でも、米テスラや中国勢の猛追を受ける。テスラが2月22日に発表した2016年の通期決算によれば、年間EV販売台数は過去最高の7万6233台を記録。三菱自動車を含むルノー・日産連合は同9万4265台だが、テスラが発表から3週間で35万台以上の予約を集めた「モデル3」を発売すれば、逆転される可能性がある。

 現状の枠組みにとどまるだけでは優位性は保てない可能性が高まっており、ゴーン氏には「次の一手」が必要な局面に差し掛かっている。

 ゴーン氏が日産などの会長に専念するもう一つの理由と考えられるのが、第1回投票まであと1カ月半に迫った仏大統領選挙への備えだ。

 「ロビー活動に注力したい。ルノーが大変な状況に陥りかねない」

 ゴーン氏はあるグループ会社幹部に退任の理由をこう説明したという。

 事前の世論調査では、リードする極右政党、国民戦線のルペン党首を、独立候補のマクロン元経済産業デジタル相が追う展開。米大統領選を受けての選挙だけに先行きは不透明だ。誰が勝つにしても、ルノーの経営への影響が予想される。

仏大統領選とPSAの攻勢

 ルノーと仏政府の前哨戦は2014年に起こった。仏政府が制定した、株式を2年以上保有する株主に2倍の議決権を与える「フロランジュ法」がその発端だ。仏政府の目的は企業への発言力を強めることにあった。ルノー株を15%保有する仏政府はルノーの仏工場の稼働率を維持するために日産車を作らせるなど、日産・ルノーのシナジー経営を否定するような介入を進めた。

 2015年4月、ルノーは株主総会で仏政府の介入を防ぐ議案を提出したが、仏政府はルノー株を一時的に買い増してこれを阻止。両者が真っ向から対立した時、政府側の中心人物の一人が大統領選を戦うマクロン氏だった。

 当時、日産の代表として事態の解決に一役買ったのが西川氏だった。日産は同年12月、ルノー株を買い増して仏政府に譲歩を迫り、経営への関与の阻止に成功した。

 対立はいったんは収束したものの、気の抜けない状況は続く。仏政府は選挙戦を前に再び民間企業への介入を強めている。2016年、工場縮小により400人の従業員解雇を決めていた鉄道大手仏アルストムに計画を撤回させた。