「国境調整税」に具体的な言及なし

 税制改革も、演説では具体的な内容は乏しかった。ホワイトハウスは、そもそも議会演説は具体的な政策を説明する場ではない、今後の予算教書で示せばよいと考えているのだろう。だが、議会共和党内でも意見が割れている国境調整税に具体的な言及がなかったことから推測できるのは、トランプ氏とホワイトハウスの共和党指導部の距離であり、両者の意見の相違を調整して政策を作り上げていく機能と仲介役の不在である。

 議会演説では中国やメキシコに対する高税率の制裁関税など、極端な保護主義の主張はなかった。米国企業が国内にとどまり、海外に流出しにくい法人税制にするとの主張にとどまったのも、トランプ氏の発想を政策に作り上げる機能が弱いという問題が解決していないからだろう。

 ムニューシン財務長官は調整に動いている模様だが、財務省の他の政府高官は不在。通商分野では、ロス商務長官は2月28日に正式に就任したばかり、ライトハイザーUSTR(通商代表部)代表候補はまだ上院の承認手続き中である。トランプ氏が信頼しているとみられる側近のナバロNTC(国家通商会議)委員長も政策立案は不得手とみられる。財務省、商務省、USTR(通商代表部)の他の高官がそろうには時間が必要であり、税制改革は今後も議会共和党が主導するのだろう。

従来の外交に動きつつ、支持者との公約で線引き

 外交・安全保障では、世界に直接、強力に関与すると訴えたことが選挙戦からの主張との違いだったが、一方で「自分は世界の代表ではなく米国の代表」との従来通りの主張もあり、世界における米国の役割への考えが変わったとはいえない。NATO(北大西洋条約機構)について支持を強調しつつ、加盟国の負担増を要求したことをみても、マティス国防長官、ティラーソン国務長官の外交・安全保障での影響力が強まったことで、トランプ氏の世界への関与についての慎重姿勢がやや修正された程度とみるべきなのだろう。

 このあたりからは、トランプ氏のコアの支持層に対する公約へのこだわりと、どこまでマティス氏らの意見を聞くかの線引きも感じられる。議会演説では、白人労働者階級などトランプ氏のコアの支持層向けの露骨な発言は少なかった。それでも、同層との公約はけっして後退させていない。

 世界への関与の限定もその一つである。トランプ氏は議会演説で「イスラム過激派」という表現を使ったが、それは20日に就任したマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の反対を振り切っての発言だったという。そうなったのも、イスラム過激派を米国内に入れない、イスラム過激派組織ISを抹殺するという公約があったからと思われる。