「無印良品」を展開する良品計画が海外事業の強化を加速している。今年1月20日にはフィリピンで地元資本と合弁会社を設立したと発表。松﨑曉社長は「毎年、売り上げと利益を10%以上伸ばす」ことを目標に掲げている。そのために毎年、国内で15~20店舗、海外で50~60店舗を目安に新規出店を進める計画だ。
海外店舗数は2017年2月期中に400店舗に達し、今期(2018年2月期)には国内店舗数(16年11月時点で423店)を上回るのは確実な情勢だ。海外店舗が増えるメリットは他にもある。円高や円安時に受けるメリット・デメリットを国内と海外で相殺し、為替の影響を受けにくい企業体質にできる。
立地による差が激しい海外
良品計画の海外進出は1991年から。最初の進出先は英国だった。海外出店の難しさは、日本よりも地域による所得の差や価値観の違いがはるかに大きいことだ。「店の前の通りを歩く人が多いからと言って、お客様になってくださる方が多いとは限らない」と同社の執行役員グローバル事業推進担当部長の大木宏人氏は話す。
良品計画の執行役員グローバル事業推進担当部長の大木宏人氏。98年の香港撤退時の現地法人社長だった。現在は海外展開を担当する執行役員の1人(写真:山下 裕之)
例えば、無印良品の定番商品の1つで、収納に使うポリプロピレンケースは何個かを重ねて利用することを想定している。積み上げてもズレないように設計されているため部屋の隅に置いていても整然とした印象を与えられる。
こうした付加価値のある商品は普通の収納ケースと値段だけを比べれば当然、割高になる。「家賃が高いロンドンでは収納に便利と評価してもらえるが、地方都市では家自体が広いので、人目に付く場所に収納ケースを置くという発想自体がない。そうした進出してみないと分からない違いは少なくない。だから、かなりの授業料を払ってきた」(大木氏)。
一度は香港から撤退
98年には香港などアジア地域からの撤退を余儀なくされるなど、同社の海外事業は決して平たんな道のりではなかった。
香港での失敗は合弁企業だったために良品計画が主導権を握れなかったことにあった。「無印良品」ブランドは元々、西友のプライベートブランド(PB)として1980年にスタートしたものだった。良品計画が「無印良品」を展開する製造小売業(SPA)として、西友からスピンアウトし、事業の展開を始めたのは1990年のこと。親会社・西友や現地資本と共に香港で合弁会社を置き、出店した。
香港に進出したのは英国と同じ1991年。店舗数を11店まで増やしたものの「『無印良品』の世界観を十分に伝えられなかった」と大木氏は振り返る。「わけあって、安い」をキャッチフレーズとする「無印良品」の特徴は、無駄のないシンプルなデザインで長く使える商品を提供することだ。それもそのジャンルが衣料、家具、文具、食料品など多岐にわたる。
失敗から学んだ成功
同社の商品アイテム数は現在、約7000ある。「当時でもアイテム数は4000以上あったはずで、その良さを知ってもらうには多くの商品を分かりやすく並べて、そこに統一して存在する無印良品のブランドとしての考え方を現地の消費者の方々に知って頂く必要があった」(大木氏)。しかし、店舗面積が狭い店ばかりで、それが難しかった。
2015年12月に中国・上海にオープンした旗艦店「無印良品 上海淮海755」の外観(上)と店内(下)。7000アイテムある商品を見やすく並べることで、「無印良品」の世界観を伝える。旗艦店があることで周囲に展開する店舗の客数も増える効果は大きい
もう一つの弱点は売価が高かったことだ。合弁相手の意向で価格が高めに設定されたことに加え、日本から商品を送っていたために価格が割高になる側面もあった。そこで「生産先の中国から日本を経ずに香港で直接商品を引き取ることでコストを削減し、売価の見直しを図ったが、撤退を止めることはできなかった」と当時、香港の現地法人の社長だった大木氏は残念そうに話す。結局、合弁相手の決断で「無印良品」の香港撤退は決まってしまう。
こうした経験を踏まえ、海外進出時には単独か自社主導で展開できる合弁相手と組むようにしている。2001年に香港へ単独で再進出。バランスの良い品ぞろえで、「無印良品」の世界観を伝えることにこだわった。結果は大成功で、現在では香港だけで17店を展開している。
中国ではSCに出店
そして、その香港で人気を得たことで、中国本土への進出が容易になった。現地のデベロッパーは中国本土でも高い集客力が見込める香港の人気店を誘致したがるためで、SC(ショッピングセンター)から有利な条件での出店要請を受けるようになった。良品計画にとって中国でのSC出店は成功パターンの1つとして確立している。
ちなみに無印商品の人気商品は現在、アロマディフューザー(アロマオイルを霧状にして噴出する機器)や「体にフィットするソファ」、化粧水など。国内・海外で売れ筋にあまり違いはないという。
良品計画の人気商品の1つ「超音波アロマディフューザー」(4900円、写真手前)。海外でも売れ筋に大差はないという。
旗艦店がブランド力を高める
2015年12月には中国・上海に売場面積約850坪の旗艦店「無印良品 上海淮海755」を出店したが、7000アイテムある自社商品を消費者にじっくりと見てもらうことで、「無印良品」の世界観を知ってもらうことが狙いの1つだ。旗艦店でブランドの考え方を知ってもらうことで、周囲に展開する系列店舗の集客力も高まる。旗艦店の出店余地は北京などの主要都市にもある。
中国の人口は日本の10倍の13億人。着実に経済成長を遂げる中で、日本の中流層と同じように「無印良品」のファンになってくれる潜在的な顧客の数も増えている。中国だけで既に200店を展開するが、「どう控えめに考えても中国の店舗数は2倍には増やせる」と大木氏は話す。
現在、良品計画では海外事業を「東アジア地域」「欧米地域」「西南アジア・オセアニア地域」に分けて運営している。社長就任までは松﨑曉社長が海外事業を一手に見ていたが、2015年の社長就任時に機構改革で三分割した。今後、同社は東南アジア・豪州がある「西南アジア・オセアニア地域」での出店にも力を入れる。中国での成功を他地域でも再現できるか。新たな挑戦が始まる。
Powered by リゾーム?