株主総会も変わった
4 デザイン経営
ゴーン氏は日産に着任するやいなや「日産のクルマにはデザインに個性がない」と指摘し、デザイン改革に動いた。欧州メーカーの中でも先進的なデザインで知られるルノーのノウハウを生かし、それまで技術や開発部門よりも立場の弱かったデザイン部門の権限を大幅に強化した。
いすゞ自動車などで活躍した中村史郎氏(現・専務執行役員チーフクリエイティブオフィサー)を社外から引き抜いてデザインの責任者に抜擢。中村氏を中心に、それぞれ車種ごとにバラバラだったデザインを改め、「NISSAN」として一貫性を持たせるデザイン戦略にかじを切った。
今ではどの自動車メーカーも統一の「デザインアイデンティティ」を持たせるのが当たり前になっているが、これも日本では日産が先駆けといえるだろう。
5 株主総会のあり方
「株主こそが会社のオーナー」。ゴーン氏はその姿勢を貫いてきた。それが表れているのが同社の株主総会だ。
3月期決算企業の株主総会の集中日から大幅に開催日を早めたのも、大手企業では日産が先駆けだった。「異議なし!」といった発声による議事進行をやめて一般の株主からの質問を多く受け付けたり、総会後にゴーン氏ら経営陣が株主と懇談する場を設けたり。株主総会を「儀礼」ではなく「対話の場」として機能させるための取り組みを進めてきた。
今でこそ会場前方の大型スクリーンで業績などを分かりやすく説明するスタイルはほかの企業にも広がっているが、これも日産が大手企業の中ではいち早く取り入れてきたものの1つだ。
以上、どれも、ゴーン氏や日産がゼロから作り上げたというものではない。「もっと前から同じことをやっていた」という日本企業もあるだろう。例えば組織横断的な意思疎通やプロジェクト推進などは、トヨタ自動車やトヨタグループが今も昔も得意とするところだ。
ゴーン氏の功績は、それぞれについて分かりやすい言葉で語り、抜群の発信力と存在感によって世の中に印象付けてきたことにある。当初の「コストカットだけ」から始まり、最近では「報酬が高すぎる」など、批判も隣り合わせだったゴーン氏。世界標準の経営が日本企業でも機能することを証明し、日本の企業ムラに刺激とダイバーシティーをもたらしたことへの評価は揺るがない。
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