日本への影響は直接よりも間接的が深刻
輸出制限が実施された場合、日本への影響はどうだろうか。
輸入制限の対象が、すべての国になるか、特定国だけになるか、品目がどうなるかなど、どのような案をトランプ大統領が採用するかによって、影響は異なってくる。だが、日本の鉄鋼業界に対する直接的な影響は限定的だろう。
日本からの鉄鋼の輸入は米国の全輸入量の5%程度に過ぎない。しかも、ボルト・ナット用の線材、鉄道用のレール、パイプライン用の大径鋼管などの高品質品がほとんどだ。
米国メーカーによって生産されていないものも多く、輸入制限で被害を受けるのは自動車や建設機械など米国のユーザー業界だ。2000年当時の鉄鋼摩擦の時も、建設機械大手の米キャタピラーなどのユーザー企業の反発が大きかった。今後、正式決定までに米国のユーザー業界と連携して、輸入規制の対象にならないように働きかけることが大事だ。
ただし、間接的な影響はあることを忘れてはならない。仮に日本製が対象にならなかったとしても、米国市場を締め出された中国の鉄鋼はアジアなど他の市場に溢れることになる。その結果、市況は混乱し、日本の鉄鋼メーカーも大きな打撃を受けることになりかねないことには注意が必要だ。
米中貿易戦争の見通し
トランプ政権は、1月には中国からの太陽光パネルの輸入に対して通商法201条に基づくセーフガードの発動を決定した。これが米国の一方措置の第1弾だ。今回の鉄鋼・アルミの輸入制限は、第2弾となる見込みだ。4月までにトランプ大統領によって決定される予定だ。
そして、第3弾が出てくる可能性も十分にある。それが、知的財産権の侵害に対して制裁を課す、通商法301条の発動だ。
こうして中間選挙にらみで、対中強硬策が立て続けに打ち出されていく見通しだ。当然、中国も報復措置を打ってこよう。
ただし、この「貿易戦争」は、実際には「コントロールされた貿易戦争」になるだろう。今や米中間の経済の相互依存関係は相当に深い。米国、中国ともに国内向けには強硬姿勢を見せる必要があるものの、深手を負わないようコントロールされたものになるはずだ。
むしろ、痛手を受けるのは米中という当事者よりも、それによる市場の混乱とWTO体制の危機に直面する日本や欧州諸国などになる可能性がある。そうならないためにも、日本はリーダーシップを発揮し、欧州などと連携して米中両国を牽制し続ける必要がある。
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