中国相手の一方的措置は貿易戦争に直結する
第2に、今回の輸出制限は最大のターゲットとして中国を定めているということも見逃せない。かつての日本相手の鉄鋼摩擦と違って、深刻な「報復措置の連鎖」が起こり得るからだ。
本来であれば、一方的な輸入制限措置のターゲットにされた国は、WTOに提訴するのが筋だが、これだと先に述べたように結論までに時間がかかる。しかも、相手はこれまでも一方的制裁を平然と振りかざす「一方的制裁の権化」ともいえる中国だ。当然、「一方的措置には一方的措置を」と考えるだろう。その結果、中国はWTOに頼らず、直ちに米国産の大豆輸入などで報復措置を講じる可能性が高い。つまり、米中がお互いに一方的制裁の応酬を続けるという、貿易戦争になりかねないのだ。
そうなれば、WTOの権威も大きく失墜する。既に、各国が保護主義的な傾向を強める中でWTOの権威は揺らいでいる。だが、WTOが作り上げてきた世界の貿易秩序を無視するパワーゲームを、米中という2つの大国が本格的に展開するようになると、世界の経済システムは混乱しかねない。
これは日本が最も恐れる事態だ。
1980年代、巨額の対日貿易赤字を抱えた米国は、日本の半導体やスーパーコンピューターなどに対して、米国通商法による一方的措置を振りかざした。日本は一方的措置による報復手段を持たないため、対米輸出を自主規制するか、対抗する場合もWTOに提訴するしか手段はなかった。
しかし、巨大な国内市場を有する中国はそうではない。国内のバイイングパワーをテコに、米国に対してパワーゲームを挑める。
なお、この関連で注目したいのが、「鉄鋼グローバル・フォーラム」という枠組みだ。中国を中心とする鉄鋼の過剰生産能力という問題について、2016年のG7(主要7カ国)伊勢志摩サミットで問題提起され、同年のG20(20カ国・地域)広州サミットで設立されたものだ。
昨年11月に世界33カ国による閣僚会議が開催され、各国が具体的な政策的解決策を着実に実施し、レビューしていくことが合意されたものだ。これは孤立してでも抵抗しようとする中国を巻き込むと同時に、保護主義を強める米国も多国間の国際協調の枠組みにつなぎ止めた画期的成果であった。
日欧は米国を共同議長にして、米国をつなぎ止めるために成果を出そうと奔走した。この仕掛けは、中国に国際的にプレッシャーをかけて、鉄鋼業界の構造改革を進めさせる点では成果を出しつつある。しかし、米国に一方的措置を踏みとどまらせるまでには効果を発揮していない。成果は期待の半分と言ったところだろうか。
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