
米商務省が、安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの輸入を制限する勧告案を公表した。トランプ大統領が4月までに最終判断をする。ターゲットは中国だ。
これが、“米中貿易戦争”の引き金を引くのだろうか。
昨年12月に予想した通り、今年前半は米中間で一方的な制裁の応酬が続くという悪夢が現実になりそうな雲行きだ(参照:中国と米国の「一方的制裁」の応酬の悪夢)
そして昨年7月に指摘したように、中国が標的でも日本も巻き添えを食らう恐れも出てきた。(参照:「したたか中国」と「声高トランプ」共存の危険)
鉄鋼という米国の伝統的な政治銘柄は、貿易摩擦の歴史だった。かつて2000年前後にも日米鉄鋼摩擦があった。当時、私自身もこの問題の対米交渉をしていた。その経験から、今回の問題を紐解いてみたい。
米国は「中間選挙至上主義」に陥っている
これまでの米国の鉄鋼を巡る貿易摩擦との根本的な違いが2点ある。
一つは米国の国内政治だ。過去においても、この要素は大なり小なりあったが、今回はその比ではない。トランプ大統領の頭の中は、この秋の米国中間選挙一色だろう。中間選挙対策として、かつて鉄鋼業が栄えた中西部の白人労働者という岩盤支持層に対して、政治的得点を稼ぐことに狙いがある。
この「ラストベルト(Rust Belt)」と呼ばれる中西部地域でトランプ氏が大統領選で多くの支持を集めた背景には、中国からの鉄鋼輸入にシェアを奪われてきている鉄鋼労働者の不満があった。そこに、トランプ氏の保護主義的な主張がはまったのであり、通商拡大法232条発動による輸入制限はその選挙公約への回答である。
この条項を持ち出したのは、輸入によって国内産業が壊滅的打撃を受けて安全保障に重大な支障をきたすという論理だ。しかし実態を見ると、それを理由にした輸入制限は明らかに無理筋で、どう見ても世界貿易機関(WTO)違反だろう。しかし仮にWTOに提訴されたとしても、中間選挙の時には、その結論は出ていない。元来WTOに不信感を持つトランプ氏にとっては、それで十分との計算が働く。
今後、トランプ政権の看板政策であるインフラ投資を拡大することによって、米国市場での鉄鋼需要は確実に高まる。その結果、今回の輸入制限によって、旺盛な需要に応える鋼材を確保できるのかという問題を懸念する指摘もある。
また、輸入制限は鋼材価格の上昇につながり、インフラのみならず、自動車や建設機械などの業界への影響も出そうだ。自動車や建設機械など国際競争にさらされている業界にとっては、コスト増は競争力に悪影響を及ぼしかねないため、反発も出そうだ。
しかし、「経済合理性よりも中間選挙」というトランプ大統領は、こうした批判には馬耳東風だろう。
そして、これらに関連して、トランプ政権内の通商問題の主導権を巡って、ロス商務長官とライトハイザー通商代表が互いに功を競っている一面もあることは見逃せない。商務省と通商代表部は、いずれもスタッフ体制が十分に機能していない。そういう中で、それぞれのトップだけが張り切っているという組織的な構造上の問題も抱えている。そして、その2人がともにかつて日本との鉄鋼摩擦で“成功体験”を持っているから厄介だ。
そうしたことが、一層トランプ政権の保護主義的な動きに拍車をかけているようだ。
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