トヨタの答え「次はPHV」
炭素繊維に太陽光パネル、新型プリウスPHVに新技術てんこ盛りのワケ
「ハイブリッドカーの次は何かと問われれば、それはPHV。これがトヨタの答えだ」
2017年2月15日、トヨタ自動車が日本科学未来館(東京江東区)で開いた新型「プリウスPHV」の発表会で、内山田竹志会長は力強くこう言い放った。この日発売した新型プリウスPHVは、2012年1月に発売した「プリウスPHV」のモデルチェンジ(改良)版だ。だがトヨタにとって今回の新型車は、通常の改良版とは意味合いが違う。次世代環境車の主軸として世界に売り込む戦略車だからだ。
2017年2月15日に発売した新型「プリウスPHV」。トヨタが次世代環境車の主軸にしようともくろむ戦略車だ
トヨタがこれまで次世代環境車としてアピールしてきたのは、PHVではなくFCV(燃料電池車)だ。2014年12月にFCV「MIRAI」を発売したものの、2016年12月までの国内での累計販売台数は約1370台。「水素ステーションの整備などが進まず課題も抱えている」(内山田会長)ため、ほとんど普及していないのが実情だ。
一方、ハイブリッド車の開発でトヨタに遅れを取ってきた競合他社は、新型車の開発の主軸を、ハイブリッド車を飛び越えて一気にEV(電気自動車)へシフトさせた。米テスラや日産自動車のEVが販売台数を伸ばしていることもあり、充電インフラも国内外で整い始めている。
そんな中、トヨタが出した答えが「PHV」だった。
プリウスでは福山雅治さんだったテレビCMでの起用タレントもプリウスPHVでは石原さとみさんに
「プリウスとの違い」にこだわる
プリウスはプリウスでも、トヨタのこれからを支える戦略車。新型プリウスPHVでは、通常のハイブリッドである「新型プリウス」との違いをあえて強調している。プリウスのイメージキャラクターは俳優の福山雅治さんだったが、PHVでは刷新して女優の石原さとみさんを据えた。外観イメージもプリウスとは大きく異なる。折り紙を折ったような直線的なボディーラインを変更し、MIRAIに近い丸みを帯びたデザインを採用した。
プリウスではなかった新技術もPHVには数多く搭載している。発表会で特に強調していたのが、バックドアに採用した「ダブルバブルウインドゥ」と呼ぶ新形状だ。
世界で初めて車載太陽光パネルを採用
2つのバブル(泡)を抱えたような曲線が特徴の「ダブルバブルウインドゥ」
フタコブラクダのように2つの膨らみがあり、中央にくぼんだラインを備えたバックドア。何の変哲もないデザインのようだが、ここにはトヨタが培ってきた技術が詰め込まれている。バックドアのガラスを支えるフレームはCFRP(炭素繊維強化樹脂)製。レクサスブランドの高級車種「レクサスLFA」で採用した軽量化技術で、トヨタブランドとしては初めて搭載した。中央のくぼみは走行時の風の通り道となるため空気抵抗を低減でき、燃費向上につなげられる。
このCFRP部品は、LFAの生産を終えた元町工場「LFA工房」で作っている。CFRP部品の製造工程は一般に、炭素繊維を含有した樹脂の材料を型に押し当て、加熱して固めるというものだ。その工程は量産というより手作りに近い。「現時点では多くの人が寄ってたかって作っている状況だが、ノウハウを蓄積し、作業の効率化を進めていけば量産ラインにできると考えている」(トヨタの担当者)という。
もう一つ、新型プリウスPHVの搭載技術で印象的なのが、「S」と「Sナビパッケージ」のみのオプションとして採用した太陽光パネルのルーフだ。ルーフと同じくらいの大きさのパナソニック製パネルをルーフ上に載せ、旭硝子製の透明な強化樹脂で覆った。透明であるため、太陽光パネルに刻まれた幾何学的な電子回路を外から見ることができる。
パネルはパナソニック製。GFRP(ガラス強化樹脂)で覆っており、パネルの電子回路が見える
「量産車に太陽光パネルを積んだのは世界初」(内山田会長)といい、これも新型プリウスPHVを特徴づける。ちなみに、この仕組みを搭載すると車体の重さが9㎏増えるが、前述したCFRP部品の採用などで軽量化を図っている。CFRP部品は通常の部品に比べて「重さを4割削減した」(同)。
月間販売目標2500台で「戦略車」?
トヨタがここまで「プリウスとの違い」を打ち出すのには理由がある。プリウスPHVが売れなかった要因の一つに、通常のプリウスとの差別化に失敗したことがあるからだ。
「お客様の立場からすると、プリウスとプリウスPHVが横に並んで売られていたときにプリウスを選ぶ。PHVは価格が高いのに、プリウスに比べて何がいいのかが明確に伝わっていなかった。ここは反省している」(内山田氏)。新型プリウスPHVの価格は、326万1600円(税込み)からで、やはりプリウス(242万9018円から)より約80万円高い。
新形状やCFRPの活用、太陽光パネルの搭載などは、この反省を踏まえたものだが、別の理由もあると考えられる。1997年にトヨタが世界で初めてハイブリッド車を発売した時には、「圧倒的な燃費性能」という誰が見ても分かる付加価値を備えていた。
しかし、PHVではそこまでの付加価値を訴えるのが難しい。「家庭で充電できる」「EVに比べて充電回数が少なくて済む」などのメリットはあるが、この点は他社が発売するPHVも同じ。だからこそ、さまざまな世界初の技術を投入して新規性を打ち出す必要があったのだろう。
トヨタは新型プリウスPHVの月間販売目標を2500台とした。「初代(PHV)と比べると5倍強の目標」(吉田守孝専務役員)と胸を張るが、戦略車としては多いとは言えない数字だ。
「ハイブリッドの次はPHV」と断言したトヨタ。まずは新型PHVの主戦場となる国内市場でどこまで販売台数を伸ばせるかが今後を占うカギとなる。
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