「エリートへの敬意が保たれるのは、彼らが国民の安全を担保しているときだけだ」。フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は、かつて、本誌の取材にこう語ったことがある。

 グローバル化によって経済が拡大した裏で、その成長に取り残されたと感じ、将来に不安を抱く人々が、欧州で増えている。国境をまたいで自国に入ってくる移民は、彼らの不安をあおる象徴的な存在だ。「このままでは自分の身が脅かされる」と感じる恐怖が、移民流入に反対する根底にある。

 おそらく、この構造は米国でも同じだろう。「高齢者」「低学歴」「地方在住」の人々が抱く不安を理解しているからこそ、トランプ大統領は、メディアからいくら批判されても、強硬な移民規制に乗り出そうとしているのではないか。

どう転んでも移民管理は強化される

 そう考えれば、移民の流入に不安を覚えるEU加盟国は、自国民が抱える不安を取り除く行動に出る。移民への管理を一層強化することになるだろう。

 実際、先に触れたオランダ下院選挙では、自由党の勢いに押され、与党・自由民主党のルッテ首相が1月23日、「我が国の価値観を否定するなら『出ていけ』」と主張する意見広告をオランダの新聞に掲載。移民に対する寛容姿勢を改めた。フランスでも、反移民を掲げる国民戦線に対抗するため、共和党などが、移民に対する管理を強化する方針を掲げる。

 間もなくEUとの離脱交渉を始める予定の英国も、メイ首相はEU単一市場への残留よりも、移民の管理を優先すると明言している。

 これまで、移民の受け入れを進めてきたドイツも、方針を転換し始めている。メルケル首相も9月に選挙を控えているためだ。移民を大々的に受け入れた2年前のような行動を取るのは難しい。受け入れ後に暴漢事件やテロが相次いだため、移民への対応を厳格化せざるを得ない状況に追い込まれている。

 移民問題への抜本的な解決策を見出すのは困難で、この状況が続くほど、欧州各国で国民の不満がさらに増す悪循環が続く。移民管理を強化する英国や米国の動きが、EU内の結束を揺さぶる可能性もある。

 じわじわとEUを窮地に追い込む移民問題。EUの基本理念の一つである「人の自由な移動」は今年、最大の正念場を迎える。