動けないことは問題なのか

 イージス・アショアについては、動けない不動産である点を問題視する意見もある。しかし前述したように、BMDのことを考える限り、2カ所に固定設置すれば日本列島の大半をカバーできるので、あえて移動しなければならないというものでもない。前述したように、イージス・アショアの導入によって負担が減ったイージス艦を、必要に応じて必要な場所に機動展開させて増援する手もあるからだ。

 実は、イージス・アショア自体は設置や移設を容易にできるように、機器をモジュール化してパレットに載せた構成になっている。「脅威の状況が変わったときには、機材を外して建物を撤去して、別の場所に移動できる。数カ月もあれば移動可能」(ヒックス氏)。

米ロッキード マーティンRotary Mission & Systems (RMS) 事業部海外戦略・事業開発担当副社長のブラッド・ヒックス(Brad Hicks)氏(写真:北山宏一)

 実際、ルーマニアに配備しているイージス・アショアの機材は、最初は米ニュージャージー州モーレスタウンにあるロッキード マーティンの事業所に設置していたものだ。そこで動作試験を済ませた後で、機材を撤収してルーマニアに移動、そちらで再設置したのである。

国民に対してはきちんとした説明を

 2018年1月9日の記者会見で、小野寺五典防衛相は「昨年末の閣議決定により、イージス・アショア2基を導入することとし、平素から常時・持続的に北朝鮮からの弾道ミサイル攻撃からわが国を直接防護する体制を抜本的に向上させることといたしました」と発言している。

 防衛に関わる事項であるがゆえ、具体的な数字を出して「ミサイル防衛能力がこれだけの改善・向上が見込める」と言及することはできない。しかし、イージス・アショアの配備が実現すれば、弾道ミサイルに対する護りの層が厚くなるのは確かだ。また、前述したように、海上自衛隊の艦艇、なかんずくイージス艦の負担軽減を図る利点も期待できる。

 しかし、冒頭で述べた通り、イージス・アショアを2基導入するためには5000億円近い費用がかかる。安全保障に関わる話だから、すべてをオープンにすることはできないのは理解できる。しかし可能な範囲で、導入の利点や留意点について国民に説明することは必要であろう。導入効果の有無だけでなく、レーダー電波の影響を懸念する声が出てくることも予想されるからだ。

 また、「2カ所のイージス・アショアがあれば日本全土のカバーが可能」の成否を握っているのはSM-3ブロックIIAミサイルだが、先日に試射に失敗している。現在は原因究明を進めているところだが、開発・配備のスケジュールが大幅に遅れるようなことがないかどうかが気になるところだ。

井上 孝司氏
テクニカルライター
軍事研究家
日本マイクロソフトを退職後、1999年にテクニカルライターとして独立。主に技術解説記事を手掛け、IT分野から鉄道・航空・軍事まで幅広くカバーしている。
◇最近の主な著書
戦うコンピュータ (V)3』(潮書房光人社、 2017年)
図解入門 最新 ミサイルがよ~くわかる本』(秀和システム、2017年)
軍用ドローン年鑑 (イカロス・ムック)』(イカロス出版、2016年)