イージス・アショア自体が脆弱にならないのか?

 ただ、イージス・アショアは陸上に固定設置する不動産だから、敵に狙われたときに、艦のように機動力を発揮して回避するわけにはいかない。降りかかる火の粉は自ら払いのけるしかない。ところが、ルーマニアに配備しているイージス・アショアを見ると、BMD用のミサイルであるSM-3ブロックIA・同ブロックIBしか装備していない。つまり弾道ミサイル以外の脅威には対処できない。

 実は、これは技術的な理由に基づくものではない。技術的には「イージス艦が搭載できる武器なら、イージス・アショアにも組み合わせることができる」(ヒックス氏)。だから、たとえばトマホーク巡航ミサイルの配備も可能である。しかし、ルーマニアやポーランドのイージス・アショア施設にトマホークを配備すれば、過去に米国とロシアで中距離核戦力制限条約に基づいて廃棄した地上発射型トマホークの再来になってしまう。

 つまり、既存のイージス・アショアがBMD専用になっているのは、技術的な理由ではなく政治的な理由に基づくものである。だから、日本政府が独自の判断に基づいて「SM-3だけでなく、イージス・アショア自身を護るための武器、弾道ミサイル以外の脅威に対処するための武器も搭載したい」といえば、それを実現できる可能性はある。

SM-6艦対空ミサイルは、以前からあるSM-2と異なり、交戦可能範囲を水平線以遠まで拡げた点が特徴。ただし、それを実現するにはイージス艦とは別に、水平線以遠で敵の航空機やミサイルを捕捉・追尾する手段が必要になる(写真提供:米国防総省ミサイル防衛局)

 すると考えられるのは、SM-6艦対空ミサイルである。これは米海軍がすでに配備を始めている長射程のミサイルで、航空機や巡航ミサイルとの交戦に使用する。日本国内の諸施設、あるいはイージス・アショア自身を狙った巡航ミサイルや航空機が飛来したときに、SM-6があれば交戦可能である。また、弾道ミサイルの迎撃や対艦攻撃を行えるようにした改良型もある。

 ただし、既存のイージス・アショアにない能力を日本で独自に追加しようとすれば、そのために必要になるハードウェアやソフトウェアの手直し、それと動作検証のための試験は、当然ながら日本側の負担になる。その追加負担を受け入れられるかどうかが問題になる。

 また、SM-6が水平線以遠の敵機やミサイルと交戦するためには、水平線以遠をカバーできる探知・捕捉・追尾手段が必要である。米海軍ではE-2Dアドバンスト・ホークアイ早期警戒機がその役割を担うが、日本が導入するE-2Dはイージスとの情報共有機能を欠いているので、同じことができない。

E-2Dは米海軍の新型艦載早期警戒機で、イージス艦や空母などとの高度な情報共有能力を備えている。日本でも導入を決めているが、日本向けの機体は目下のところ、その情報共有能力を持たない。搭載するレーダーは、ステルス機の探知も可能だといわれている。(写真提供:米国防総省)

 ではイージス艦はどうしているか。イージス艦自身はBMD専用というわけではないから、SM-2艦対空ミサイルや近距離防御用の機関砲を備えている。また、海上自衛隊のイージス護衛艦がBMDの任務に専念しているときには、別の護衛艦が随伴して護衛の傘を差し伸べることになっている(改修後の「あたご」型や新しいイージス護衛艦は、対空戦とBMDの同時対応が可能だ)。

イージス艦の護衛任務も受け持つ「あきづき」型護衛艦の2番艦「てるづき」(写真:井上孝司)

 こうしてみると、「こんごう」型に別の護衛艦が随伴するのと同様に、イージス・アショアについても別の防禦手段を増援するのが現実的な解決策かもしれない。

 では、敵国の工作員や特殊作戦部隊が送り込まれてきた場合にはどうなるか。これはイージス・アショアに限らず、既存の基地施設にも共通する問題である。警備のための人や装備がまったくない軍事施設というものは存在しないから、イージス・アショアだけを特別視するのは適切ではない。他の施設と同様に、警備・防御手段を講ずることになる。