特徴(1)「常続性」

 海上自衛隊のイージス護衛艦は、戦闘システムを扱う乗組員に加えて、艦を動かすための乗組員(航海や機関など)、そして艦の任務を支えるための乗組員(補給、食事、医務など)も一緒に乗り組んでいる。そのため、1隻当たりの乗組員は300~310人に達する。

 実のところ、海上自衛隊の艦艇乗組員は慢性的に定員割れを起こした状態だといわれている。イージス艦のように重要性が高い艦には優先的な配員が行われていると思われるが、それでも完全に充足できているかどうかは分からない。

 そして、任務が増える一方で艦の数はなかなか増えないので、限られた艦がさまざまな任務に駆り出される状態が続いている。それは必然的に、乗組員の疲弊や訓練不足といった問題につながる可能性を惹起する。

 ところが、イージス・アショアは艦を動かすための乗組員を必要としない。戦闘艦には武器システムを操作するための要員が詰める戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)という区画があるが、そこに詰める要員がいれば用が足りる。また、現行のイージス・アショアはBMD専用だから、さまざまな任務に対応しなければならないイージス艦と比べると、戦闘システムを扱う人員の所要は少ない。

<span class="fontBold">ブラッド・ヒックス(Brad Hicks)氏</span><br />米Lockheed Martin(ロッキード マーティン) Rotary Mission & Systems (RMS) 事業部海外戦略・事業開発担当副社長。米海軍に約33年間勤務(退役時は海軍少将)。米海軍の対空ミサイル防衛司令部(Naval Air and Missile Defense Command)の初代司令官(対空ミサイル防衛司令部は2009年4月に設立され、米海軍における統合防空ミサイル防衛(Integrated  Missile  Defense:IAMD)を統括する)、ミサイル防衛庁(MDA)のイージス弾道ミサイル防衛システム(Aegis BMD)のプログラム・ディレクター(計画責任者)などの要職を歴任。殊勲章(Distinguished  Service  Medal)、防衛功労章(Defense  Superior  Service Medal)、勲功章(Legion of Merit)など数々の勲章を受章。米海軍退役後にロッキード マーティンに入社。同社Mission  Systems  & Training(MST)事業部のIntegrated Warfare Systems & Sensors(IWSS)部門の事業開発担当副社長などを経て、2018年1月より現職(写真:北山 宏一)
ブラッド・ヒックス(Brad Hicks)氏
米Lockheed Martin(ロッキード マーティン) Rotary Mission & Systems (RMS) 事業部海外戦略・事業開発担当副社長。米海軍に約33年間勤務(退役時は海軍少将)。米海軍の対空ミサイル防衛司令部(Naval Air and Missile Defense Command)の初代司令官(対空ミサイル防衛司令部は2009年4月に設立され、米海軍における統合防空ミサイル防衛(Integrated Missile Defense:IAMD)を統括する)、ミサイル防衛庁(MDA)のイージス弾道ミサイル防衛システム(Aegis BMD)のプログラム・ディレクター(計画責任者)などの要職を歴任。殊勲章(Distinguished Service Medal)、防衛功労章(Defense Superior Service Medal)、勲功章(Legion of Merit)など数々の勲章を受章。米海軍退役後にロッキード マーティンに入社。同社Mission Systems & Training(MST)事業部のIntegrated Warfare Systems & Sensors(IWSS)部門の事業開発担当副社長などを経て、2018年1月より現職(写真:北山 宏一)

 その結果、イージス・アショアは「12名程度の要員で運用できる」(ブラッド・ヒックス氏)という。ただし、24時間フルタイムで稼動させようとすれば交代要員も必要になる。ルーマニアで稼動している米海軍のイージス・アショア施設では、三交代のシフトを敷いているので、その場合には12×3=36名が所要となる。なお、システム構成によって人員の所要が違ってくるので、この数字はいくらか変動する可能性はある。

 もちろん、システムを操作する要員だけでなく、基地施設の警備・防衛を担当する要員や、食事の用意をはじめとする後方支援業務も必要になる。しかし、既存の基地や駐屯地に配備すれば、インフラを新たに用意する負担はかなり抑えられるだろう。人が増えるといっても数十名程度であれば、大きな負担増にはならない。

 すでに稼動しているルーマニア、あるいは導入作業が進んでいるポーランドの場合、「冷戦崩壊前から存在していた基地施設を活用している」(ヒックス氏)という。日本でも、イージス・アショアのために新たに土地を買収して施設を建設するということはないだろうから、そういう意味での負担は軽い。

 また、艦艇は定期的にドック入りして整備を行う必要があるが、これは船体や機関の保守が必要になる事情が大きい。しかし、陸上に固定設置しているイージス・アショアでは、船体も機関も関係ない。

 ヒックス氏はイージス・アショアの特徴として、何度も「Persistent」という言葉を挙げた。日本語で直訳すると「永続性」となるが、氏が意図しているのは軍関係者がよく使う「常続性(つねぞくせい、と読む)」というニュアンスだろう。これは、少ない人員で運用でき、かつ、艦艇と違って定期的に整備に入れる必要がないことから、24時間365日・フルタイムの運用を比較的低コストで実現できるという意味である。

特徴(2)「共通性」

 前述したように、イージス・アショアで使用するハードウェアもソフトウェアも、イージス艦で使用しているものと共通である。したがって、BMDの能力についてはどちらも同等とみなしてよい。

 ただし、イージス艦は全周をカバーするため4面にレーダー・アンテナを備えているが、イージス・アショアは2面のみである。したがって、カバーできる範囲は最大で180度程度の範囲になると考えられる。それを脅威の方向に向けて設置する必要がある。また、レーダーを据え付けても、送信した電波が山などの障害物に遮られたのでは意味がない。「設置に際しては、レーダーの視界に関する現地調査や確認が必要」(ヒックス氏)という話になる。

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