安倍政権は2017年末に米軍の陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」を導入することを閣議決定した。防衛省は2018年度(平成30年度)の概算要求の中で、「新規アセットの導入(事項要求)」と題して、「新規アセット(イージス・アショアを中心に検討)の整備に着手」との記述を盛り込んでおり、小野寺五典防衛相はイージス・アショアを秋田と山口の両県に一基ずつ配備する考えも明らかにしている。
緊迫する北朝鮮情勢だけでなく、中国・ロシアに対する防衛力を高める上でも極めて重要なアセットと言える。ただ、最新鋭のレーダーにイージス・アショアを2基配備すると、総額で5000億円近くの費用がかかる。
今回、私はイージスシステムを開発・製造する米Lockheed Martin(ロッキード マーティン)で、ロータリー&ミッション・システムズ部門で国際戦略・事業開発担当副社長を務める、ブラッド・ヒックス氏にインタビューする機会を得た。そこで、同氏の話を織り交ぜながら、イージス・アショアの実像に迫ってみたい。
イージスBMDとイージス・アショアの関係
「イージス艦」という言葉は、日本でも既に馴染み深いものになっている。観艦式、あるいは一般公開イベントで現物を御覧になったことがある方も多いだろう。
イージス戦闘システムはもともと、空母や揚陸艦などを対艦ミサイル攻撃から護る目的で開発された。そこで重視されたのは、同時多目標交戦能力である。つまり、多数の対艦ミサイルが飛来したときに能力不足でパニックになってしまうことなく、迎え撃てるようにするシステムを目指していた。
具体的にはどうするか。まず、飛来する多数のミサイルを同時に捕捉・追尾するとともに、脅威度の高さに応じて優先度をつける。そして、優先度が高い目標から順番に、SM-2艦対空ミサイルを発射して交戦する。イージスより前の艦対空ミサイル・システムでは同時に2~4発の艦対空ミサイルしか発射できなかったが、イージス戦闘システムでは同時に12~16発の艦対空ミサイルを発射して交戦できるといわれている。
その監視能力と処理能力が買われて、後から弾道ミサイル防衛(BMD : Ballistic Missile Defense)の機能が付け加えられた。いわゆるイージスBMDである。そして、BMDの機能を備えたイージス戦闘システムを陸揚げしたのがイージス・アショアという図式になる。
具体的にいうと、イージス戦闘システムを構成するコンピュータ、AN/SPY-1D(V)レーダー、Mk.41ミサイル発射器などの機材一式を、陸上に設置する建屋に収納する。

日本では現在、「あたご」型護衛艦2隻のBMD対応改修が進んでいるほか、新型のイージス護衛艦2隻を建造中だ。イージス・アショアが使用するのは、これら4隻の艦が搭載するものと、基本的に同じシステムである。
イージス・アショアは陸上に固定設置するものだから、イージス艦のように自由に動き回ることはできない。しかし、日米で共同開発を進めている弾道弾迎撃ミサイル・SM-3ブロックIIAは広い覆域を持っており、2カ所に配備すれば日本全土をカバーできるとされる。だから、SM-3ブロックIIAとイージス・アショアの組み合わせを日本国内の東西2ヶ所に配備すれば、理屈の上では日本全土をカバーできることになる。
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