日米購買力平価(PPP)とドル円相場
日本銀行、総務省、米労働省などより国際通貨研究所作成

現在のドル円相場はほぼ均衡水準

 最後にドル円相場を取り巻く状況に触れておこう。先ず、現在のドル円相場の均衡水準を国際通貨研究所(IIMA)算出の購買力平価(PPP)で確認すると、約112円程度(企業物価ベースが97円、消費者物価ベースが127円でその中間値を採用)に位置しており、ほぼ今の実勢に合致した水準にある。となれば、そもそも現在、日米間で敢えて争点化すべき為替相場の不均衡は存在していない、ということになる。

 また、実体経済に目を向ければ、グローバルな生産・在庫循環の好転という追い風を受けて、日本経済も緩やかな回復局面が続いている。更には原油価格が1年前との対比で大きく上昇しており、物価指標に対する油価の押し下げ圧力はこの先徐々に剥落するだろう。これらを総じてみれば、日銀による追加緩和は当分見込まれない。

 一方、昨年の本邦経常収支は年間で20兆円を超える巨額の黒字額を計上。需給面からはやや円高圧力がかかり易い環境でもある。今のドル円相場は、これらから生じる円の先高観を、米連邦準備理事会(FRB)による利上げ観測が相殺する形で推移している。足元の経済ファンダメンタルズに照らせば、相場は今すぐどちらか一方向へ極端に動意付く蓋然性が極めて低く、トランプ大統領の口先介入を深追いすることは、あまりお奨めできそうにない。

 11月8日の米大統領選挙日以降、金融市場では「一体何がどう変わるか」に関心が集中している。それは至極当然のことであり、また、今後も各人最大の注意を払うべき課題ではある。しかし、不確実性が余りに長く続いている今の状況下、やや発想を変えて、トランプ大統領誕生で「何が変わらないか」に思いを馳せることも必要に思われる。異常事態だからこそ虚心坦懐に情報に接し、経済ファンダメンタルズのデータをもとに忠実に相場に向き合う。その発想で過去3ヵ月の相場を振り返ると、実は「トランプ大統領が何を言ったところで、均衡水準(購買力平価112円)から±5円程度の値動きに留まっている」というオブザベーションになる。

通貨安牽制より基軸通貨ドルの将来に不安

 米国サイドは新政権の形が少しずつ見え始め、キーパーソンも判ってきた。また日米首脳会談の成果として「経済対話」設置とペンス副大統領のトップ関与も朗報だ。折しも今週は、米大統領選挙から約100日が経過する。市場心理も徐々に実相を見極める地に足の着いたものになって行くことが期待される。
こうして、目先的な為替市場の警戒こそ緩んでいるが、中長期的には楽観できる状況にない。為替市場を巡る真の懸念は、大統領による通貨安牽制の口先介入等にはそもそもなく、やはり、基軸通貨ドルの将来にあると言えるだろう。「米国第一主義」を掲げ、トンデモ発言を繰り返す大統領の下で、基軸通貨としての信認を著しく損ねる事態が発生すれば、結果として、金融市場がグローバルに思いもしない形で大混乱に見舞われる可能性はある。

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