「当社の成長を阻害する課題は、人材の確保だ。従業員の労務管理と働き方改革なくして成長できない」。2月9日、大手ファミリーレストランのすかいらーくの谷真(たに・まこと)社長は、2016年12月期の決算説明会の場でこう強調した。
2016年12月期の決算説明会で、今後3年間の出店計画について説明する、すかいらーくの谷真社長(写真中央)
すかいらーくの業績は、売上高3545億1300万円(前年比1%増)、営業利益は312億4900万円(12.4%増)、当期利益は182億1600万円(前年比20.5%増)だった。消費者の節約志向が根強く残る中、外食産業は2016年も逆風に見舞われた。そうした逆境下でも増収増益。しかも過去最高益を更新したすかいらーくは、「ファミレスの雄」と言ってもいいはずだ。
その陰で同社は2016年12月、大きな決断に踏み切った。深夜営業時間の短縮だ。2017年から、主力の「ガスト」などで原則「深夜2時閉店、朝7時開店」とすることとした。これまで約3000店のうち990店が深夜に営業していたが、その65%に当たる650店で、深夜営業の短縮を予定している。残りの340店も、今後、深夜の営業を中止していく可能性があるという。
メニュー改定数を減らし、従業員の負担減らす
外食業界の人材確保は、ここ数年で、特に厳しさを増している。すかいらーくは労働環境を変えることで従業員満足度を高めて、雇用の確保を目指している。深夜帯から朝食や昼食など日中のピークタイムに人材をより多く集めて、スピーディーなサービスにつなげたいという狙いもある。
このほかにも、従来やってこなかった改革にも取り組む。その一つが、「グランドメニュー」という定番メニューの改定数を減らすこと。2016年までは年4回だったのを、今年は3回に減らす。「2018年は2回まで減らすかもしれない」と谷社長は話す。パートやアルバイトのオペレーションの習熟度を上げることを優先するためだ。
さらに、同社は今後パートアルバイトの採用や雇用の仕方も見直す。従来はパートAが「ガストB店」で採用になれば、そのB店にシフトの希望を出して働くのが普通だった。今後は、そのパートAが空いている時間帯に近隣にある「バーミヤンC店」でも働けるようにする。「洗い場やホールなど、当社は業態で共通している仕事が多く、対応はしやすい」と谷社長は説明する。こうした雇用形態を広げるためには、メニューの改定頻度は低い方がやりやすいというわけだ。
30億円の売り上げ減はデジタル戦略でカバー
深夜営業を休止したり、メニュー改定の頻度を減らしたりすれば、当然、業績にマイナスの影響を及ぼす。特にメニュー改定の頻度を減らせば、常連客にとって新鮮味が乏しくなる。計画している通り、深夜営業している990店のうち65%で深夜営業を止めれば「年間で売り上げは30億円、利益で8億円のマイナスになる」と谷社長は試算する。
それでもすかいらーくは、2017年12月期に既存店で売り上げを1.5%増やし、マイナスの影響を払拭しようとしている。どのようにカバーするのか。
「プロモーションのやり方を、アナログからデジタルへ変えていく」と谷社長は語る。同社はこれまでカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のTカード会員のデータを、クーポンの発行やメニュー開発などに生かしてきた。今後も過去に食べた商品から、それぞれの顧客に合ったクーポンをデジタルで発行していく。
また、クーポンの額も、個人によって変える。谷社長によれば、客単価の“下層”を形成している顧客は、来店頻度が低くなる傾向があるという。こうした人たちには1回300円引きのクーポンを発行する一方、来店頻度の高い人には50円引きとするような施策を打つ。また、お正月やお盆などのイベントのある時期には全業態で10%引きといったプロモーションを展開していく。こうした施策は既に検証済みで、今年から本格的に注力していく方針だ。
2017年からの出店数は3倍強に増やす
このほか、テイクアウトやデリバリーも強化する。デリバリーは現在、ガストはガストの商品しか届けられないが、別の業態の商品も一緒に注文できるようにする実験を進めており、消費者の多様なニーズを満たしていく考えだ。
すかいらーくは、2017年から3年間で450店の新規出店を計画している。その前の3年間は144店だったので、実に3倍強となる。新規出店する地域は、最近強化していた人口の集中した都市部ではなく、従来の強みであるロードサイドだ。従業員を十分に確保することが、目標達成には不可欠と言えるだろう。メニューの改定頻度を減らしたり、深夜営業を止めたりすることで目先の売り上げは減るかもしれないが、それでも将来の成長に向けた手を打ったわけだ。
外食業界では日本マクドナルドが業績を改善した。今期はさらに新規採用を強化したり、育成のツールを改定したりして、「人材に定評のあるマクドナルド」の巻き返しを図ろうとしている。ファミレスとファストフード、両方の雄が人材確保にさらに動くことで、人材争奪戦はますます厳しくなりそうだ。
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