通商・経済チームがそろえば米国は要求強める

 ただし、トランプ大統領が今回の日米首脳会談を経て、日本の為替政策の円安誘導や不公正な自動車貿易といった認識を見直したわけでも、日本への要求を取り下げたわけではない。今後の日米間の新たな経済対話の中で、米国が為替政策や自動車貿易を取り上げるように求め、日米FTAの交渉開始を呼び掛けてくる可能性は残っている。その時は、トランプ政権の通商・経済チームもそろっているだけに、トランプ大統領が今回の首脳会談ではみられなかった、米国第一主義を前面に押し出した強硬姿勢で取引を迫ってくる恐れも大きい。

 とはいえ、トランプ大統領は安全保障・外交面では、マティス国防長官の就任後にマティス氏の主張に同調するようになり、意見の一致しなかった選挙公約を取り下げるという柔軟姿勢をみせている。安全保障関係者や議会で超党派の支持を得るマティス氏の主張をトランプ氏が取り入れ、日米同盟の軽視や日本の駐留費の負担増額などマティス氏の主張に反する選挙公約をあっさりと取り下げたのである。

 同様の動きが通商、経済面でも見られれば、日本にとっては安心できることになる。実際、ホワイトハウスではゲーリー・コーンNEC(国家経済会議)委員長の発言力が強まり始め、コーン氏が極端な保護主義を唱えるナバロ氏を脇に追いやり始めたとの観測もある。財務省もムニューチン長官が上院に承認されて、その後に次官補などの指名・承認が続いてチームがそろえば、トランプ政権内で穏健な為替政策への修正を目指す動きが強まるだろう。

 だが、安全保障・外交分野と通商・経済分野では、重大な違いがある。トランプ大統領にとっての最優先課題は白人労働者階級の雇用創出や所得増加であり、トランプ氏の企業経営の経験や信頼する側近バノン氏の主張と強く結びついて大統領選から一貫していて譲れない。何より、白人労働者階級の期待を裏切るようなら20年の再選は覚束なくなるという危機感がトランプ氏にはあるだろう。

 これに対して安全保障・外交分野での主張は、専門知識の裏付けがなく、支持層の期待を取り上げただけのポピュリストの訴えであり、雇用創出ほどのこだわりはない。だからマティス氏の意見に合わせて、方針転換もしやすかった。しかし、通商・経済分野では逆にこれからそろう通商・経済チームにトランプ氏が譲歩を求めるだろう。トランプ氏との側近の関係でも、安全保障分野ではトランプ氏のフリン氏を見る目が厳しくなっているといわれるが、通商分野ではトランプ氏のナバロ氏への信頼は厚い。

 むしろ、トランプ政権の経済政策に修正を求める圧力を掛けるのは、予算を握る議会共和党だろう。同党指導部を同党主流派が占め、トランプ大統領のような白人労働者階級への思い入れはない。ライアン下院議長は、オバマケアの見直しを優先することではトランプ氏と一致しているが、税制価格は8月までの法案化とトランプ氏ほど急いでいない。保護主義的な経済政策でも法人税制改革の中での輸出非課税、輸入に20%課税の国境調整税の提案であり、トランプ氏ほど過激ではない。

 トランプ氏は減税、インフラ投資とも財政赤字の拡大を厭わないが、ライアン氏ら議会共和党は財政中立を重視し、赤字拡大を嫌う伝統路線のままである。そして議会共和党の方が2018年の中間選挙で2020年のトランプ大統領よりも先に有権者の審判を受けるという切迫感がある。このため、日本から見ても、今後、トランプ大統領が議会共和党との協議を経て、どのように主張を修正するかを見極める必要がある。

今回はタイミングに恵まれたが…

 それでも、白人労働者階級からの支持のつなぎとめを最優先するトランプ氏の政権運営は、今後何があっても変らないだろう。それは、どうしても保護主義的な通商・経済政策の実現を目指す動きになり、日本への要求に反映される。議会共和党との協議といっても、その修正の程度の問題であり、方針が根本から変ることはあるまい。今回の日米首脳会談は安全保障・外交分野も通商・経済分野も、日本、安倍首相は十分に練られた事前調整の奏功もあり、満足できる成果を得られたが、トランプ政権の戦略のミスと政府高官がそろわず、事実上政権がスタートしていないというタイミングに恵まれた面も大きい。

 トランプ政権の政府高官がそろい、通商・経済チームが整うであろう春以降に、おそらく経済対話は異なる主張がぶつかり合う厳しい展開になっていく可能性が高い。そこでは、今回の首脳会談でも示されたが、どれだけ日本企業が多額の直接投資を通じて、米国の雇用創出に貢献しているかを訴えて、理解を広めていくことが必要になる。しかも、その対象はトランプ政権、その通商・経済チームだけでなく、日本企業の進出先から選出される上下両院議員まで広げ、政権に無理な主張があれば議員が日本に味方して政権に是正を求めてくれるという関係を築いていく必要がある。それには、日本政府と進出している日本企業、その意見を集約する財界団体などの総力を結集した取り組みが必要になるだろう。

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