トランプ大統領は政権運営で手詰まりになっていた

 発足から3週間ばかりの新政権が政権運営で壁に当たるなど異例だが、実際にトランプ政権は日米首脳会談の直前になってトラブルが続出していた。

 トランプ大統領が1月27日に署名したイスラム圏7カ国国民らの入国一時禁止の大統領令は、政権の重要課題であるテロ対策の柱に位置付けられた大事な政策だった。ところが、シアトル連邦地方裁判所から差し止めを命じられ、日米首脳会談の前日9日には連邦控訴裁判所(高裁)が地裁命令を支持した。同大統領令は米国民の過半に反対されたものの、共和党支持者の多数からは支持を得たことで政権は強気になっていただけに、かえって打撃は大きかった。トランプ大統領は、日米首脳会談後のフロリダ州に向かう機中で新たな大統領令を発表する可能性も示唆したが、早期に7カ国からの入国禁止措置の再実施までこぎ着けることは難しくなっている。

 トランプ大統領を支える側近の経験や実力の不足も露呈し始めている。入国一時禁止の大統領令を主導したのは、トランプ氏が信頼を寄せホワイトハウス内で発言力を強めているスティーブ・バノン主席戦略官・上級顧問だった。だが、バノン氏が議会共和党や国土安全保障省に十分に相談せず、大統領令の発表を急いだ結果が、多くの州からの違憲との提訴を招いて高裁の入国禁止差し止め支持になったとの指摘は多い。

 最近は人種差別的な極右運動「オルト・ライト」とつながるバノン氏が、NSC(国家安全保障会議)常任メンバーへの異例の抜擢を受けたことに懸念の声が広がっていた。だが、トランプ氏は最も頼りにしていたバノン氏が政権の重要課題の具体化につまずいたことで苛立っている可能性がある。国家安全保障担当のフリン大統領補佐官も、首脳会談の前日にトランプ政権の発足前に駐米ロシア大使と対ロ制裁を電話で協議したことが明らかになり、問題になった。ケリーアン・ コンウェー大統領顧問もテレビのインタビュー中に、トランプ氏の長女イバンカさんのファッション・ブランドを宣伝したとしてホワイトハウス内で忠告を受ける問題になった。

 トランプ大統領は、700人近い政府高官が上院の承認を受けてそろい、政府が機能するようになるまでには時間を要するため、それまでは自らの権限を駆使して大統領令などを連発するつもりだった。通常は政権交代後の新政権の最初の100日間はハネムーン期間と呼ばれ、メディアも野党も新政権の批判を避ける慣例があるため、トランプ氏は必ずしも急ぐ必要はなかった。

 だがトランプ氏は、あえて就任初日から矢継ぎ早に大統領令などを出すことで、過去の政権にない優れた企業経営者の実行力を世論に誇示するという戦略を選んだ。そこには、オバマ前政権の実績潰しを急いで支持層を喜ばせる狙いがあることも明らかだった。しかし、大統領令などと側近に依存した政権運営は、発足からわずか3週間で綻びを見せ始めた。実行力を世論にアピールするつもりだったが、大統領支持率は40%強の歴史的な低水準をさまよっている。戦略が裏目に出つつある。

日本に早期に成果を求める必要はなかった

 とはいえ、当面の打開策もない。政府高官の就任は遅れ、上院の承認を受けたのは閣僚級の9人だけ。トランプ政権の最重要課題である白人労働者階級の雇用創出に関係する閣僚の承認は皆無である。いくらトランプ大統領や通商政策の側近であるピーター・ナバロ国家通商会議委員長が国境税導入など保護主義的な経済政策への転換を唱え、中国や日本の通貨安誘導を批判しても、できることは大統領覚書によるTPP離脱までだった。

 通商・経済の政策を実際に組み立て、運用するチームはいないから、日米首脳会談でトランプ氏から日米FTA交渉の開始や為替政策の是正を求めようにも、具体策の準備がない。日米首脳会談での日本からの麻生副総理とペンス副大統領による新たな経済対話の新設の提案は、トランプ政権にとっても渡りに船だっただろう。

 トランプ氏にとって、ゴールはあくまで中核の支持層である白人労働者階級の雇用創出。日本の為替政策も自動車貿易も、米国政府の通商・経済チームがそろうのを待ち、一定の時間をかけて雇用創出につながる要求を組み立てていけばよく、今回の日米首脳会談で日本に早期の成果を求める必要はなかった。今のところ、支持層もトランプ氏の中国やメキシコ、日本への不満の表明と個別企業への米国内への生産シフトの要求に満足し、行動を急ぐように求めていなかったためである。