為替介入をしていないのに日本が批判される理由

 では日本はどうなのか。米国の貿易赤字で第2位にあるのは確かに日本だ。米国の貿易赤字に占める日本の割合は2005年の11%程度から2016年には9%程度へ低下しているものの、3%程度を占めるドイツよりも大きい。この間の米国の輸入総額に占める日本割合は8%から6%に低下した。しかし、米国財務省の「為替報告書」で為替操作の「監視国リスト」として挙がる6カ国のうち残る4カ国のドイツは5%、韓国は3%、台湾とスイスは1.8%程度と低い。しかも2014年半ば以降に日本の輸出総額は伸びているが、対米依存が際立つ。日米通商交渉では日本が厳しい譲歩を迫られる可能性がある。日本の輸出の強みは自動車と資本財だが、対米向けは自動車が大きい。

 為替政策についてはどうなのだろうか。トランプ氏は日本について為替介入はしていないが、金融政策で円安誘導していると批判している。確かに、日本は直近では2010年から2011年にかけて数回の介入を繰り返したことがあるが、その後は、介入実績はない。

 一方、2013年4月からは日本銀行が黒田東彦総裁の下で大量の国債を買い入れる「超金融緩和」を実施し、過度な円高・株安が是正されている。2016年1月にはマイナス金利を導入し、意図しない円高方向への転換を招いている。同年9月に10年金利を0%程度で釘付けする政策を導入すると当初の影響は限定的であったものの、11月8日の米大統領選挙後の米国金利が急上昇すると、その金利差をもとに短期筋の外国投資家を中心に円安・株高へ方向へとポジションが転換し、円安が進むきっかけなった。

「為替介入」と「超金融緩和」の違いとは?

 為替介入も超金融緩和も円安の方向に働きかけるとすれば、それらの違いはどこにあるのだろうか。ひとつには、第一義的な目的が異なっている。為替介入の場合、急速に通貨高が進むと経済への負担が大きいと判断される場合に、通貨高のペースを抑えるために為替相場に直接的に働きかけることが多い。20カ国・地域(G20)ではこうした介入は、自国の競争力を高めるために他国を犠牲にして輸出を促進しているわけではないとして容認している。一方、超金融緩和の目的は国内の物価安定にあり、そうした政策についてもG20で合意がある。物価の安定とは各中銀が定めたインフレ目標を実現することを指し、日本では2%である。エネルギーを除いた現在の物価の基調をみると0%程度なので金融緩和がまだまだ必要だというわけである。

 もうひとつの違いは、用いる手段が異なることだ。為替介入ではドル預金や米国財務省証券等の外国資産を買い入れるのが、超金融緩和では国債を含む国内資産を買い入れる。どちらも資産買い入れの見返りに、中銀が自国通貨を市場に供給している点で同じである。もっとも日本の場合、為替介入は財務省が所管しており財務省が国庫短期証券を発行して円を調達し、日本銀行に委託してその資金を使って外貨を買い入れているため、資金供給が増えることはない。仮に日本銀行が外国資産を直接買い入れれば資金供給が増えることになるが、その行為が為替介入とみなされれば財務省の権限とのすみわけが難しいこともあり、実施されていない。

 ではG20で国際合意があるのに、なぜ、日本は通貨安誘導と批判されるのだろうか。それは、超金融緩和の目に見える効果として通貨安とそれにもとづく株高が際立つからであろう。

 日本では銀行に預金が沢山集まっており資金が潤沢な割には貸出先が少なく、大企業では現金を多く保有し資金需要が乏しいという構造的問題を抱えており、金融緩和効果は大きいとは言えない。このため、円安・株高が唯一の金融緩和効果なのだから日銀は米国との金利差を維持する低金利政策を続けるべきとの見解を、海外投資家からよく耳にする。しかも、米国財務省の為替報告書では日本を前述の監視国リストに入れる理由の説明で、円高圧力が高まると政府当局による円高抑制を目的とした口先介入がみられると明記している。確かに、円高が進むと財務省・日銀・金融庁の幹部が緊急会合を開催し、市場を牽制するかのような行為がみられる。こうした一連の動きが、国際的に円安誘導ととられがちな背景にあるようだ。

いずれにしても、超金融緩和は長くは続かない

 現在の円安が超金融緩和によるところが大きいとすれば、そうした超金融緩和は長くは続けられないことを今から認識しておくことが必要だ。だとすれば、超円高が是正されている現在、低金利環境である今のうちにその環境を最大限に生かして、スピード感をもって、企業は為替の変動に左右されない競争力を一段と高めていくこと、政府は企業の新陳代謝が進むよう規制緩和や成長戦略などにいっそう取り組んでいくことが重要だ。

 日本の輸出はもはや「量」ではなくより付加価値の高い製品の輸出に大きく軸足を移している。アジア地域で生産分業体制が定着しており、アジアの生産拠点と日本の間では企業間の輸出と輸入が双方に拡大している。となると円安が総じて日本経済にプラスだとしても、以前ほど需要を押し上げる効果は期待できなくなっている。目先の為替の動向よりも超金融緩和後の将来を見据え、必要な対策を今から着々と打っていくことに皆が専念すべきではないか。