的外れの対中貿易批判

 こうした見方には2つ問題がある。ひとつは、中国では2015年半ばの人民元切り下げをきっかけに人民元安圧力が強まっており、資本流出に拍車がかかっていることにある。最初は人民元安期待が高まる中で中国企業による短期ドル建債務の前倒し返済が中心だったが、最近では居住者による(さまざまな規制の網の目をくぐった)当局の統計では把握できない形での流出が増えている。中国向け証券投資も減っている。

 中国はさらなる人民元安を招くと資本流出がとまらないことに恐怖を感じており、人民元安の急速な進行をなんとか抑えているのが現状だ。用いている手段は(1)外貨準備の取り崩し、(2)資本流出規制の適用強化、そして(3)金利上昇が中心である。

(1)外貨準備については、2015年半ばの4兆ドルから大きく減少して今年1月には3兆ドルを下回っており、米国債もこの間2200億ドルほど売却している(もっともこの減少の一部は為替評価損も含まれる)。

(2)資本流出規制については主に企業の国際送金などに対して引き締めており、企業の経済活動の妨げとなっている。中国政府は、2009年から人民元のSDR通貨バスケット入りを目指して国内金融規制の自由化、資本流入規制の緩和、人民元の国際化を進めてきたが、現在ではその流れと大きく逆行している。

(3)金利引き上げについて、今年1月に中国人民銀行(中央銀行)が商業銀行に貸し出す6カ月物のやや長めの金利を10ポイント引き上げ2.95%にした。それに加えて、昨年の米国大統領選挙以降、資本流出や米国金利につられて長期金利は1%ほど上昇している。金利上昇は中国経済を冷やす恐れがあるが、資本流出を抑制する効果が期待されているようだ。

 米国が主張するように中国が完全に自由な変動相場制に移行すれば、人民元は大幅に安くなり、米国の国益とは合わないであろう。しかもそれにより中国金融市場が不安定になって中国経済が落ち込めば、世界第2位の輸入大国である中国の輸入低迷が続き、米国を始め世界の対中輸出は伸び悩む恐れがある。最近では中国発の為替・株価不安定化が日本を含む世界に波及するほどの影響力をもつようになっていることにも注意が必要だ。

 もう一つの問題は、1980年代とは異なり二国間貿易の不均衡に注目しても意味がない点にある。アジア地域では2001年の中国による国際貿易機関(WTO)への加盟をきっかけにサプライチェーンが加速し、日本や他のアジア諸国が付加価値の高い中間財・資本財を中国へ輸出あるいは中国・アジアに生産拠点を構えて生産する生産分業体制が進んだ。

 例えば、米国は世界最大の輸入市場であるが、日本の対米輸出は2割程度に過ぎず、アジア向けが半分を占めるのもそうした背景がある。だからこそ、中国から米国へと輸出が増えているのだ。米国が中国に高関税を適用しその状態が長期化すれば、外資系・中国系問わず企業は他の国へと生産拠点を移していくであろう。米国社会が貯蓄よりも消費が旺盛である限り、不均衡を改善するのは難しい。

 それでも米国新政権は、選挙公約通り、中国を為替操作国として認定し高関税率を適用するとみられる。それを正当化する根拠として、米国の貿易赤字の約半分を中国が占めており、2005年の25%程度から拡大していることを挙げるであろう。米国の関税率引き上げに中国は報復する構えであるため、そうした応酬がメキシコやカナダなどの他の諸国でも実践されていくと、企業の経済活動は阻害され、世界の貿易活動が今後数年はいっそう停滞することが懸念される。