一連の会談後、安倍首相は周辺に「物静かで重厚感のある人物だった。全ての認識について一致した」と満足げに語っている。対北朝鮮での連携なども確認し、ひとまず安保分野での懸念が解消した形だ。

「狂犬」との会談は「全て一致」

 安倍首相は一連のマティス氏との会談を踏まえ、首脳会談でも尖閣諸島が日米安保条約に基づく対日防衛義務の適用範囲であることを明確にし、日米同盟関係の強化に協力して取り組んでいく方針を確認したい考えだ。

 ただ、トランプ氏の言動は閣僚と一致しないことも多く、首脳会談時の出方はなお不透明だ。トランプ政権が今後、防衛費の増額や自衛隊の活動拡大などを求めてくるとの見方は根強い。

 こうした懸念に先手を打つ形で安倍首相はマティス氏に自らの持論である防衛力強化の方針を表明。自民党は首相官邸の意向を受け、防衛費増額に向けた議論を本格化させる方針だ。

 首脳会談で最大の焦点となるのが自動車を中心とする通商問題だ。日本との自動車貿易を「不公平だ」と繰り返し非難するトランプ氏は1月28日の安倍首相との電話協議で、日本の自動車企業による米国内での雇用創出を要請した。今回の首脳会談でもトランプ氏が自動車問題に言及する公算が大きい。

 「一方が利益を得ているのではないと説明し、反論すべきところは反論していく」。国会答弁でこう語った安倍首相はトランプ氏の出方に応じて、1999年から2015年にかけて日本車の米国現地生産が年150万台増加し、関連部品会社や販売店を含めた雇用創出が150万人に及ぶことなどを説明し、理解を求める考えだ。

 これに関連し、注目されたのが2月3日の安倍首相とトヨタ自動車の豊田章男社長との会談だ。タイミングが絶妙だっただけに、急遽設定されたかのような印象を与えたが、数ヶ月前にはこの日の「懇談会」が決まっていたというのが実情だ。

 「デフレ脱却を掲げる安倍首相にしてみれば、トヨタにもっと賃上げや国内への設備投資の先導役になってほしいとの思いがある。豊田社長とは微妙な距離もあり、たまにはざっくばらんにご飯でも食べながら話そうという趣旨で設定されたものだった」
 関係者はこう明かす。

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