家具や家電量販など、1990年代以降に急成長した専門店チェーンで社長交代が相次ぐ。創業者の高齢化が背景だが、社長職は譲っても経営の実権を握り続けるケースが多い。成長を支えてきた企業風土を保ちながら、真の意味で世代交代ができるか。各社とも難題を前に試行錯誤が続きそうだ。
ニトリホールディングスは創業者で新会長の似鳥氏(右)と、生え抜きの新社長の白井氏(左)が役割分担する(写真:清水 真帆呂)
「世の中の変化に対応して改革スピードを上げるため、役割分担を明確にした。退任ではない」。家具小売り最大手、ニトリホールディングス(HD)創業者の似鳥昭雄社長(71歳)は1月下旬、社長交代の記者会見でこう話した。
2月21日付で、白井俊之副社長(60歳)が社長兼COO(最高執行責任者)に就き、似鳥氏は代表権を持つ会長兼CEO(最高経営責任者)となる。「私が長期的な戦略や方向性を決め、白井がそれを実行に移す」と似鳥氏は説明する。
白井氏は1979年入社。同期にはニトリHDの池田匡紀専務など、グループの中核を成す人材が多い。新卒採用を始めて4期目の入社ということから、社内では「花の4期生」とも呼ばれる。2014年に事業会社ニトリの社長に就いてからは、後継の最有力候補だった。「満を持してのエース登板」と似鳥氏に紹介され、白井氏は「入社して初めて褒められた気がする。もう一度新たな気持ちで課題を整理し、旧来の発想を捨てて職務に励みたい」と応じた。
ただ似鳥氏は一方で「私もまだ20代という気持ちでやっているので、死ぬまで現役でいたい」とも話した。創業オーナーとして似鳥氏が、絶対的な権限をもつという経営の実態は大きく変わらない見通しだ。
グループ人材を抜擢
生え抜きではないものの、能力主義でグループの人材を抜擢したのがヤマダ電機。4月1日付で、桑野光正・執行役員常務(61歳)が社長兼COOに就き、創業者の山田昇社長(72歳)が会長に就く人事を1月に発表した。桑野氏は、ヤマダが2002年にイトーヨーカ堂から買収したディスカウントストア、ダイクマの出身だ。
ヤマダでは今後、山田氏が住宅販売など新規事業を軌道に乗せる役割を担い、一宮忠男副社長(60歳)が副会長兼CEOとなって構造改革を推進する。桑野氏は社長兼COOとして人材育成に力を入れるというように、3人の代表権者が役割分担する「三頭体制」に移行する。
ここに来て続く、有力専門店の社長交代。それは戦後の小売業の発展の歴史の中で、百貨店や総合スーパーの後を追って成長した勢力だったという背景がある。
これら専門店は1970~80年代に会社を立ち上げ、創業者が持ち前の才覚で、一代で成長させた企業が多い。特に1990年代の不況期や、その頃から続く長いデフレ期に、低価格を武器にその収益を大きく伸ばした。
だが創業から30年以上がたち、現在は似鳥氏や山田氏がともに70歳を過ぎるなど、創業者の高齢化が進む。世代交代を意識する時期に差し掛かってきた。
専門店など有力チェーンの世代交代が注目される
●創業者が社長を務める主な企業
社名 |
社長 |
年齢(歳) |
ファーストリテイリング |
柳井 正 |
67 |
ヨドバシカメラ |
藤沢 昭和 |
80 |
大創産業 |
矢野 博丈 |
72 |
カルチュア・コンビニエンス・クラブ |
増田 宗昭 |
65 |
アインホールディングス |
大谷 喜一 |
64 |
(注)実質創業者を含む
専門店各社を見ると、創業者が現在も社長を務める企業は引き続き多い。
例えばファーストリテイリング。柳井正・会長兼社長(67歳)は以前、「65歳で社長を引退する」と話していたが、2013年にこの発言を撤回。現在も社長を続けている。
柳井氏は2人の子息を執行役員につけているが、かねて事業執行を担う経営トップの世襲はしないという考えを示している。次の世代は「柳井家」という大株主の立場で経営に関与していく形を、想定しているとみられる。ニトリHDも似鳥氏の子息がグループ会社の役員を務めているが、世襲しないということでは、似鳥氏も柳井氏と似た考えを示している。
ヤマダ電機では創業家出身の取締役として、広告プロモーション本部長の山田傑氏(41歳)がいる。山田昇氏は傑氏について「人にはそれぞれ資質がある」と語り、後継者・代表者には向かないという考えを述べた。
他の専門店でも、創業者の高齢化がいよいよ目立ってきた。ヨドバシカメラ創業者の藤沢昭和社長は昨年、80歳を迎えた。100円ショップ大手、大創産業の矢野博丈社長は70歳代。調剤薬局大手で、最近はドラッグストアなどにも力を入れる、アインホールディングスの大谷喜一社長も60歳代半ばになった。
ヨドバシでは昭和氏の長男で副社長の藤沢和則氏(50歳)が後継社長の最有力候補のようだ。だが後継者を決めかねている企業も多い。
ヤマダ電機の山田昇氏も2008年、おいの一宮忠男氏に社長を譲って一度会長に就いたが、業績悪化を受けて2013年に社長に復帰。全役員の降格という荒療治も入れながら、立て直しに奔走した経緯がある。再登板を余儀なくされた格好で、世代交代の難しさを浮き彫りにした事例だ。
小売業界を見回すと、専門店よりも企業としての歴史が古い百貨店や総合スーパーでは、既に創業者からの世代交代や、「脱・創業家」への経営シフトが進んでいる事例が多い。だがダイエーのように、故・中内氏というカリスマ創業者の陰で後継者が育たず、長男に後継を託そうとしたものの、経営が傾いていったという例もある。
企業としての持続的な成長を実現しながら、後継者も育成してスムーズに権限を引き継ぐという難題をどう解決するか。創業家の子息、自社の生え抜き社員、もしくは外部の「プロ経営者」――。自分が作り上げた会社を一体誰に託せばよいのか。創業者の悩みは深い。
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