三菱重工業などが手掛ける国産ステルス戦闘機の実証機が、2月中旬以降に初飛行する見通しとなった。これまで有人ステルス機の飛行に成功しているのは、米国、ロシア、中国の3カ国。実証機で性能を検証し、次期主力戦闘機を日本が自主開発するか、米国など海外と共同開発するかといった基本方針を2018年度までに決める。高い技術力が必要な戦闘機の調達方針がどうなるかは、今後の日本の航空機産業に大きな影響を与える。
防衛装備庁は1月28日、国産ステルス戦闘機の実証機の型式を「X2」とするとともに、2月中旬以降に初飛行させると発表した。実証機は2009年度に試作を始め、約400億円を投じてきた国家プロジェクトだ。主に三菱重工が機体を担当、IHIがエンジンを製造する。
「防衛装備庁が開発中の国産ステルス機(愛知県の三菱重工工場)」
2月の初飛行ではコンディションの良い日を選んで、三菱重工の工場に隣接する名古屋空港から離陸。上空で性能試験を行い、航空自衛隊岐阜基地に着陸する予定だ。3月末までに防衛省に引き渡し、その後は防衛省のもとで飛行試験などを続ける。
ステルス性と高運動性を両立
実証機は「ステルス性」と「高運動性」の両立を目指して作られた。ステルス性とは、敵のレーダーで発見されにくい能力のこと。機体に照射されたレーダーを本来の方向に反射させないようにすることで、どこにいるのか探知されにくくする。1991年の湾岸戦争で米軍が投入したステルス機で世間に知れ渡った技術だ。
独特の機体形状によってステルスなどの性能を実現した
実証機では、機体の形状やエンジンのダクトを工夫したり、電波を吸収する素材を用いたりした結果、レーダーでは「大きな昆虫か鳥くらいにしか映らない」(自衛隊幹部)水準のステルス性を実現したという。敵に戦闘機であることがばれなければ効果的に任務を遂行できる。
部品30万点、220社が結集
次いで高運動性。これは近距離戦の際、従来機に比べて小回りを利かせて敵機の背後に回り込んだり、機体が急上昇した際にも失速しにくかったりと、戦闘機としての使い勝手の良さに直結する性能だ。機動性が高まり、これまで無理と思われていた動きができるようになる。複合素材の使用による軽量化や高機能エンジン、エンジンの噴射向きを変えられるパドル、機体制御システムなどを組み合わせた成果だ。
公開された実証機は実際の戦闘機よりもやや小ぶりで、全長が約14メートル、全幅が約9メートル、全高が5メートル弱。ミサイルなどの武器は搭載していない。型式のX2の由来は技術研究を目的とする「X」、その2番目という意味だ。X1は1950年代から60年代にかけて存在した。頭文字は航空機の種類によって異なり、戦闘機だと現在の主力機材の1つ「F15」のように「F」が頭文字になる。
製造に当たっては、三菱重工やIHIのほか、翼の部分は富士重工業、コックピット周りは川崎重工業など、大小合わせて約220社が部品供給などで関与。部品総数は約30万点に上るという。
三菱重工幹部は「(以前に戦闘機開発を経験した)技術者による技能伝承や、技術基盤を維持するうえでも重要」と開発の意義を説く。戦闘機で養った複合材の製造加工技術などは、これまでも民間航空機の生産にも役立ってきた。
そもそもX2は現在の空自の主力機材の1つ「F2」の後継機をどのような方法で整備するのか、検討するための材料として製造した。F2は2028年以降に退役が始まる見通しだが、戦闘機の開発には10年単位の時間がかかる。中国の軍事的台頭でアジアの安全保障環境が不安定化しつつある中、うかうかしていられない。日本は耐熱素材やレーダーなどで技術優位性があるとされる。
独自開発か共同開発か
今後、政府は実証機の性能を見極めたうえで、後継機について3つの選択肢から選ぶ方針だ。
1つ目が独自開発、2つ目が他国との共同開発、3つ目が輸入だ。過去、日本は戦闘機の選定で数々の苦難に直面してきた。米国の強い影響のもと、戦後は日本が独自開発した戦闘機はない。F2は日本の国力が絶頂期だった1980年代当初、独自開発を目指していたが、、日米共同開発に追い込まれた。
これらの機材とは別に日本が今後導入する予定の戦闘機「F35」についても、本来、日本が導入を希望したのは、より高性能とされる「F22」だった。だが先端技術の流出を嫌った米国が拒否した経緯がある。目下、日本と米国は同盟関係にあるが、国の軍事力を左右し、巨額の予算がついて回る戦闘機の選定は、一筋縄ではいかない。
防衛装備庁幹部は独自開発のメリットについて「国内の技術基盤維持や経済全体への波及効果、グレードアップや維持補修のしやすさ」などを挙げる。投入された技術を厳密に参加国で管理する共同開発機だと、日本の都合だけで改良しにくい。
一方、数々の戦闘機などを手掛ける米ロッキード・マーチンのチャック・ジョーンズ日本法人社長は「(日本が独自開発した場合)かなり大変な作業で莫大なコストがかかる」と指摘する。日米関係も含めて現実的に考えると、実際の戦闘機開発はこれまでと同様、米国などが絡む形で共同開発の線で落ち着くのではないか、との見方が現時点では有力だ。防衛装備移転三原則によって、従来以上に海外勢と共同開発しやすい環境も整ってきたのは事実だ。
ただし、仮に最終的に共同開発を選ぶにしても、国産ステルスX2の意義は小さくない。必要であれば独自開発できるだけの準備を進めておかないと、調達面で今後も足元を見られ、最先端技術の開示はしてもらえず、高価な機材を買わされ続けるという立場に甘んじる羽目になる。
これは防衛産業に限ったことではなく、通常のビジネスにおける交渉と同じだろう。この文脈で言うならば、X2は単に周辺諸国の戦闘機と比較して一喜一憂するための“記念品”ではない。高いステルス性や高運動性を存分に実証してみせることで、百戦錬磨の米軍機が脅威を感じるくらい、存在感を発揮する使命を負っている。
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