軽の「真ん中」が示す凋落

 安全性能の高さを強調するのは、軽の競争軸を変えようとするスズキの意思でもある。

 軽自動車市場は低迷が続いている。2016年通年の軽乗用車販売台数は前年比9%減の172万5460台にとどまった(全国軽自動車協会連合会調べ)。

 三菱自動車の燃費不正や軽自動車税増税前の駆け込みの反動減の影響もあるが、「軽自動車」という規格自体の魅力が減っていることも指摘されている。

 その中でも、ワゴンRは輝きを失っている。1993年に発売したワゴンRは、広い室内空間を確保したことで軽に「ワゴンタイプ」という革新をもたらした。車種別月間販売台数トップの常連となり、長らくスズキの大黒柱だった。

 しかし、ホンダの「N-BOX」やダイハツ工業の「タント」など、車高の高い「ハイトールワゴン」の登場や、消費者の嗜好の多様化などによって、徐々にワゴンRの売れ行きは落ちていった。2016年の軽乗用車販売ランキングでは9位まで順位を下げた(1位はN-BOX、2位はタント、3位は日産自動車「デイズ」)。スズキも「ハイト系が増加している傾向にある」(加藤勝弘四輪商品・原価企画本部長)と認める。

 鈴木社長は会見で「ワゴンRは軽の『真ん中』」というキーワードを何度も使った。同社にとって軽のスタンダードは「アルト」だが、ワゴンRの位置付けは「使い勝手などを考えると多様な消費者が選びやすいクルマだ」(鈴木社長)。

 全面刷新したものの、コンセプトである「快適で使い勝手の良いパッケージング」は変えない。そこに、安全装備を付加したのは、使い方や嗜好が多様化する中でも、安全だけは絶対的な価値だからだろう。

 新型ワゴンRの目標販売台数は月間1万6000台。達成できれば、ホンダのN-BOXを抜いてトップに返り咲ける数字だ。

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