TPP11の3月署名合意は米国の想定外

 前日のテレビインタビューもトランプ氏の思いつきではなく、意図的な「揺さぶり戦術」だろう。TPP復帰を検討、方針転換であるかのように報道させることが目的で、日本の報道はトランプ氏の思うつぼに違いない。

 ではなぜ、このタイミングで揺さぶってきたのか。

 先週、TPP11(米国抜きTPP)の内容が参加国で固まり、3月署名で合意されたことは米国の想定外であったようだ。

 振り返れば、1年前の日米首脳会談での共同声明で、日本は「米国抜きTPP」を追求することを米国に巧みに仁義を切った(参照:2017年2月15日付「トランプ氏が発した『互恵的』の真意」)。その後、米国の反発を気にして外務省が躊躇している中で、昨年4月、日本はやっと官邸主導でTPP11に動き出した(参照:2017年4月25日付「米国抜きTPP、官邸が慎重論を跳ね返した意味」)。

 その頃はTPP11に対して米国は撤退した立場で表立って反対することもできないので、冷ややかに「日本のお手並み拝見」であった。どうせ日本はまとめ切れないだろうと、高をくくっていた節がある。それが予想に反して、日本が主導して難航する調整に奔走し、最後は強硬に抵抗するカナダまで説得し切ったのだ。

 しかも英国が参加の意向を伝えてきたことは、米国にも衝撃が走った。経済的な意味はともかく、戦略的、国際政治的な意味は大きい。

 米国が焦って当然だ。豪州などTPP参加国に比べて相対的に高関税になって輸出が不利になる牛肉などの畜産業界の焦りは高まる。畜産業界は政治力の強い業界でもある。この秋の中間選挙の対策としても何らか手を打つ必要が出てきたのも事実だ。

 TPP11には反対はできないが、TPP11の早期成立を揺さぶり、あわよくば中間選挙までに成立していなければありがたいと、トランプ氏が考えても不思議ではない。

 そこで再交渉前提で、TPP復帰の可能性もあるかのような「思わせぶり」の戦術に出たのだろう。米国の復帰に期待を寄せて、3月の署名に動揺が走る国が出てくれば御の字というわけだ。本気でTPP復帰を検討する気は、毛頭ないのではないか。

 その「思わせぶり」は国内の産業界の焦りにも配慮したポーズにもなり、中間選挙対策としても有効だ。「産業界からの圧力で方針転換を迫られた」との報道もあるが、だからと言って、トランプ氏が本気で方針転換すると思うのは早計だ。

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