もう1点、今回のマイナス金利の導入で、政策委員たちの票決が割れたことは注目である。

円安だけで日本を引っ張れるのか

 賛成5で、反対4。賛成は、総裁・副総裁の執行部3人と、新しく政策委員になった2人。古い政策委員たちが揃って反対したという格好だ。彼らは、長く議論してきてマイナス金利に弊害が大きいことを百も承知であるのだろう。一方で新しいメンバーたちは、それよりも金融緩和の追加的な効果がなくなることを不安視して、その副作用は我慢するしかないと腹を括ったのであろう。

(図表3)ドル円レートの推移
出所:日経QUICK

 今回の措置による副作用が大きいとしても、作用が大きければそれでよいという見方はできる。では、その作用とは何だろうか。金融政策が、為替レートを円安に動かすことである(図表3)。マイナス金利の導入に前後して、ドル円レートは1ドル118円から121円へと大きく円安に向かった。日米金利は、つっかい棒を外したように広がったからだ。

 しかし、筆者は失われるものの方に関心を持った方がよいと考えている。なぜならば、追加的な量の拡大によって当座預金の中で、ゼロないしマイナスの部分が増える。すると、金融セクターでは、量的拡大にも拘らず、収益面でマイナスの効果が及ぶために、リスクテーク能力が低下するかもしれない。これは、金利が下がれば貸し出しが増えるという単純な流れにはならないことを示唆している。

 例えば、住宅ローンを例にとると、ローン金利は低下するが、銀行のリスクテーク能力が低下するため、住宅ローン貸出残高が増えるかどうかは分からないということである。筆者は、質的緩和にはならず、質的引き締めになるリスクについて警戒している。

 最後に、金融緩和の手法について、多くの人が誤解しているかもしれないので説明しておこう。たとえ安全資産である国債の利回りをマイナスにしても、金融機関は能動的に外債や株式を増やすわけではないということである。金融機関のリスクテーク能力が高まってこそ、外債や株式などのリスク資産を拡大できる。

 もしも、金融機関が安全志向を変えないとすれば、マイナス金利でも国債保有を続け、収益面でのマイナスを甘受することになる。資産運用の利回りを不利にすれば、金融機関がリスクテークに熱心になるだろうというのは、無理筋の議論である。

 日本経済への影響は、円安による輸出企業への収益プラス効果と、金融セクターや預金者などの運用者の収益マイナス(あるいは信用収縮作用)の効果の両面がある。筆者の見立てでは、円安のメリットは短期的に強く表れて、運用のデメリットは中長期的に継続するとみる。メリットの円安にしても、2012年末以降の円安下で、輸出数量が増えていかなかったという経緯をどう解釈しているのか。

 締め括りとして述べたいのは、マイナス金利政策は決して長く続けられる政策ではないし、長期化させることが望ましくない政策であるという点だ。