「本当に利用客は増えるのか」

 初乗り運賃変更で、現場からは不満や不安の声も聞こえてくる。「ばかなことをしたもんだ」。50代の個人タクシーのドライバーはこうつぶやく。「確実に収入は減る。タクシーを利用するお客さんは、もう固定してますよ。値下げしたところで、どのくらい増えると思いますか」と悲観的だ。

 法人に所属する別のドライバーは、「うちの会社としては賛成しているみたいだけど、仲間うちでは『遠くまで乗ってくれるお客さんが減るんじゃないか』と心配している」と話す。

 変更に向けて、2016年8月から9月にかけて、初乗り410円の実証実験が行われた。その際、利用した日本人の6割が「利用回数が増える」と答えている。だが、一般消費者に意向を尋ねる調査は行われていない。川鍋会長自身も「予想しづらい」と話す。

効率的に稼ぐ時代に突入

 今回の運賃変更によって、タクシー業界の再編が一気に進むと見る向きは多い。

 「短距離のお客が多くなっても回転率を高めて稼げればよいが、営業する場所によって明暗は分かれるだろう。最近普及している配車アプリなどを活用して、いかに効率的に稼げるかが勝負の時代になる。そうした資本を投じられるかどうかが、生き残りに関わってくる」と、あるタクシー会社の首脳は話す。

 タクシー会社のM&A(合併・買収)を手掛ける、日本M&Aセンター事業法人部の榊原啓士シニアディールマネージャーも、「効率的に稼ぐためには、設備投資は不可欠。訪日外国人が増加し、大手を中心に多言語対応を進めるべく、コールセンターを設置する動きなどが目立つ。こうしたことができない小規模の会社にとっては厳しい時代だ」と話す。

 タクシー業界は1兆6000億円の産業にもかかわらず、最大手の日本交通でも500億円ほどの売り上げだ。川鍋一朗会長は、日経ビジネス2016年11月28日号の編集長インタビューで「再編の軸になりたい」と語っている。

 海外を見渡せば、配車アプリ大手の米ウーバーテクノロジーズが台頭し、利用した人からは日本でのライドシェア解禁を求める声が上がっている。こうした動きは、タクシー業界にとって脅威ともいえる。“ちょい乗り”で消費者をいかに呼び込み、利益を上げていくか。タクシー業界の真価が問われる時代にもなっている。