横流しされたCoCo壱番屋が廃棄した冷凍カツ(写真:毎日新聞社/アフロ)
カレーチェーン「CoCo壱番屋」を展開する壱番屋が廃棄した冷凍カツの不正転売問題が、コンビニ各社や食品卸などに波紋を広げている。セブン&アイ・ホールディングス、ローソン、ファミリーマート、イオンなどのPB(プライベートブランド)商品も、不正に横流しされていたからだ。
これらの廃棄品を不正に横流ししていたのは、産業廃棄物処理業者ダイコー(愛知県稲沢市)と製麺業者みのりフーズ(岐阜県羽島市)。壱番屋の冷凍カツが横流しされていた事実を受けて、岐阜県が冷凍カツを転売したみのりフーズの冷凍室や倉庫を調査したところ、冷凍食品など108品目が発覚。そのうち、69品目について製造業者の名前などが記されており、そこに流通大手のPB商品も含まれていた。
コンビニ大手3社の横流しされたPB(プライベートブランド)商品
チェーン | 商品 |
セブン&アイ・ホールディングス | セブンプレミアム 豚バラ蒲焼き |
ローソン | 炭火焼鳥 もも塩 |
からあげクン、からあげクン 北海道チーズ |
ファミリーマート | ファミマプレミアムチキン |
醤油からあげ |
コンビニなどでは、メーカーに開発・製造を委託したPBが他チェーンと差別化するための戦略商品となっている。そのため、こうしたPBについてはメーカーや卸などと協力して、原材料の調達から製造、流通経路の管理にコンビニが積極的に関与している。「異物混入など品質・安全上の問題が発生すれば、PBのイメージが悪化し、売り上げに大きな影響を及ぼしかねない」(あるコンビニ大手の幹部)からだ。
ところが、製造・流通過程で発生する廃棄物の処理については、外部の企業に丸投げしているような状況だ。セブン&アイ、ローソン、ファミリーマート各社は、流通過程で出る廃棄物の処理を食品卸に委託している。
セブン&アイの横流しされた商品は、セブン&アイ専用の食品卸であるエスアイシステム(新宿区)からダイコーに処分を委託されていた。一方、ローソンは三菱食品にすべての廃棄物の処分を委託しているが、中部地域については三菱食品から大阪市の別の卸会社を経由してダイコーに委託されていた。ファミリーマートの商品は日本アクセスが取り扱っていたが、日本アクセスはダイコーとは直接的な取引実績はなく、流出経路は現在調査中だという。
どの産廃業者に託すか、役所のリスト頼み
コンビニチェーンから食品廃棄物が出る経路は、主に2つが考えられる。1つは、PBの製造過程で異物混入などの品質上の問題が発覚した場合や、流通段階で賞味期限が近づいたり破損したりして販売できなくなった場合だ。そしてもう1つは、店舗のオーナーが何らかの理由でチェーン本部に返品した場合である。カウンターで販売する唐揚げなどの商品では、焦げが多かったり形が悪かったりといった理由で、返品される場合がある。
これらの理由で廃棄されることになった食品の処分は、取引のある食品卸に委託される。そして卸は、社内のルールに基づいて選定した産業廃棄物業者に、処分を依頼する。ただし、「どの産廃業者が優良業者なのか、独自に判断するのは非常に難しい。優良業者をまとめた役所のリストなどに頼らざるを得ない」(食品卸)のが現状だ。
1つの判断基準として使われているのが、環境省のリストだ。環境省は2011年から、「優良産廃処理業者認定制度」を実施している。「通常の許可基準よりも厳しい基準をクリアした優良な産廃処理業者を、都道府県・政令市が審査して認定する制度」である。この制度で認定されている業者を検索できる「産廃情報ネット」によると、優良認定業者数は960社(2015年12月31日時点)となっている。
CoCo壱番屋が廃棄した冷凍カツを横流ししたダイコーは、「登録再生利用事業者」として登録されていた
一方、農林水産省も、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)」に基づいて、食品廃棄物を飼料や堆肥などにリサイクルする業者を「登録再生利用事業者」として登録している。同省サイトによると、登録事業者数は177社(2015年9月末時点)となっている。
今回、廃棄された食品を横流ししていたダイコーは、優良産廃処理業者として認定されてはいないものの、登録再生利用事業者としては登録されていた。
崩壊した性善説のトレーサビリティー
ある食品卸は、「原則としては、環境省の優良産廃処理業者に認定されている企業に委託することに決めている。ダイコーは優良産廃処理業者に登録されていなかったが、いくつかの理由からそれに準ずる業者として委託していた」と話す。委託先の選定には、物流倉庫から産廃業者の拠点までの距離の近さや、委託費用、そして実績などが考慮されるという。だが、委託先の産廃業者が適切に処理をしているかどうかは、「最終的には、産廃業者が発行するマニフェストを信じるしか、方法がない」(食品卸)。
マニフェスト(産業廃棄物管理票)とは、産業廃棄物の排出事業者から最終処分業者まで、廃棄物が委託内容通りに処理されたことを確認できるように、処理に関わる事業者が順番に記入していく伝票のことだ。いわば、産廃処理に関わる全ての事業者が正しく記載するという性善説に基づいて作られた、産業廃棄物のトレーサビリティー(追跡可能性)を担保するためのシステムである。
しかし、今回の横流し事件では、ダイコーがこのマニフェストに虚偽の記載をしていたようだ。ダイコーと直接取引をしていた大阪市の卸会社の社長は、「ダイコーが商品を横流ししているなんて。中部地域では大手だったし、施設確認させてもらって問題はなかった。マニフェスト通りにやっていると信じていたのに、産廃処理の前提が崩壊してしまった。もう何を信じていいかわからない」と頭を抱える。
岐阜県の食品リサイクル業者の担当者は、「ダイコーは実績もあったし、取引先からは信用されていたのではないか。本当に驚いている。不正が発覚したら産廃処理の許可をはく奪される。なぜリスクを冒してまで、ダイコーは横流ししたのか」と首をかしげる。
今回、横流しされたとされる食品の中で、流通経路が正確に解明されたものはまだ一部だ。原材料の調達から店舗での販売に至るサプライチェーン、いわば企業活動の「動脈」については、度重なる食品不祥事などを経て、トレーサビリティーの考え方が浸透してきている。しかし、サプライチェーンの中で必ず排出される産業廃棄物の流通経路、いわば企業の「静脈」については昔から関心が低かった。
横流し問題を受けて、一部の企業は対策を公表し始めている。壱番屋はダイコーとの取引を停止するとともに、今後、商品を破棄する場合は包材から取り出して堆肥の原料に混ぜるなどの対応をするという。セブン&アイは、「あらゆる対策を講じる」と表明した。
だが、性善説に基づいて構築されてきた静脈のトレーサビリティーの根幹を揺るがす不正に対して、メーカーや流通などの産廃の排出企業がどこまで対策を講じることができるのか。ブランドイメージや売り上げに直接影響する「動脈」の管理と比べて、不要なものを廃棄する「静脈」にはコストをかけたくないというのが、当事者たちの本音だろう。企業にとっては、コストとの見合いで手探りの状況が続きそうで、失墜した静脈のトレーサビリティーの信頼回復には時間がかかりそうだ。
■訂正履歴
表中「炭火焼肉 もも塩」としていたのは、正しくは「炭火焼鳥 もも塩」です。本文は修正済みです。 [2016/01/28 12:00]
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