三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、三越銀座店で準備していた「空港型市中免税店」を27日にオープンした。三越伊勢丹HDと日本空港ビルディングなど4社の合弁会社が運営する店舗で、銀座で訪日外国人客のさらなる需要を取り込む。三越銀座店は8階の3300㎡の売り場スペースを運営会社に提供することで、賃料収入を得るビジネスモデルだ。
「世界有数のショッピングエリア、銀座における三越銀座店の魅力アップと買い物客のシェア拡大が最大の目的だ」。オープンに先立ち取材に応じた銀座三越店店長の浅賀誠氏は、市中免税店「Japan Duty Free GINZA」が、昨年10月に新装開店した三越銀座店にとって重要な役割を果たすことになると強調した。最初の1年間の売り上げ目標は150億円、1日2000人程度の来店者を見込む。売り上げの8割を外国人が占めるイメージだ。
化粧品やラグジュアリーブランド、時計などを中心に販売する。ラグジュアリーブランドでは「ヴァレンティノ」や「サンローラン」といった、これまで国内の空港免税店では扱いの無かったブランドも出店するという。「ブシュロン」は世界初の空港免税店への出店だ。化粧品も、三越銀座店の1階で外国人に人気のブランド中心をそろえた。
「日本のものづくり」にフォーカスした売り場があるのも、これまでの空港にある免税店とは違った点だ。「THE 800 HANDS JAPANESE BEAUTY」と呼ばれる売り場では、職人の技が光る工芸品や、日本を感じる工業製品などを集めた。外国人に日本の優れた作品を手にとってもらうことを目的としている。
「需要の食い合い」は起こるのか?
売り場は、「自然と人」「伝統と革新」「東洋と西洋」といった、相反するコンセプトが自然の中で共存する様子を表現し、独特の雰囲気を持った空間を創り出している。「時間に追われがちな空港での免税店とは違って、ゆっくりお買い物を楽しんでいただきたい」と、日本空港ビルディングの米本靖英専務取締役は話す。
「日本のものづくり」にフォーカスした売り場もある。
訪日外国人で賑わう銀座は、数多くのラグジュアリーブランドが路面店を構える場所である。三越銀座店をはじめとする百貨店内にも、今回、空港型市中免税店内にあるブランドの売り場がある。市中免税店(DUTY FREE)は通常の免税店(TAX FREE)とは異なり、消費税に加えて関税や酒税、たばこ税も免除されるため価格競争力は強い。商品にもよるが化粧品は8~28%、革製品は10~20%ほど安くなる。三越店内の需要を8階の免税店に取られ、売り上げが落ちるといった「需要の食い合い」は起こらないのだろうか。
浅賀店長は「化粧品を中心にこれまで外国人が集まっていた売り場の混雑が解消することで、日本人のお客様の買い物がしやすくなる。新たな需要が生まれると見ている」とみている。商品の在庫についても8階の免税店と、他の階の情報を共有し合いながら、来店客を誘導していく方向だ。買い回りの利便性を高めて、三越銀座店全体の価値を向上していくことが、長期的に見て、店舗全体の売り上げ向上に貢献すると見ている。
ロッテなどと競争激化へ
2014年10月に、免税商品の対象が化粧品や医薬品などにも広がった結果、日本の免税店ビジネスは大きく飛躍した。今や、TAX FREEと呼ばれる国内における免税店舗数は約2万店まで増えた。
一方、DUTY FREEの空港型免税店に関しては、沖縄を除いてこれまで市中に進出することはなかった。しかし「2015年の訪日外国人が1970万人超となった今、多様な買い物需要にも対応していかなければならない」と米本氏は話す。
日本では、これまで韓国や欧米のような市中免税店がなかった。空港免税店の顧客は日本人が中心で、市中に免税店が進出する必要がなかったからだ。しかし、為替の円安傾向や景気低迷の影響で日本人の海外旅行需要は以前に比べて減少した。代わって台頭してきたのが中国人をはじめとする外国人観光客だ。外国人観光客は、空港では買い物する時間をたっぷり取れないケースが多い。市内に滞在中でもゆっくり買い物する時間が欲しいというニーズは少なからずあるはず。空港型の免税店がここにきて市中に進出するのは、このような背景もあると考えられる。
三越伊勢丹は、今後銀座のみならず、福岡・天神にある福岡三越でも福岡空港ビルディング、西日本鉄道と合弁会社を設立して、市中免税店を開店する予定だ。銀座のみならず、外国人が多く訪れる場所で、市中免税店が広がることが予想される
3月31日には、銀座四丁目からさほど遠くない数寄屋橋交差点前にオープンする「東急プラザ銀座」に、韓国資本のロッテが運営する市中免税店がオープンする。市中免税をめぐる外国人争奪戦は、これから本格化すると言えるだろう。
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