英国議会の今後の予定を見ると、法案を審議するタイミングは2つ考えられる。

 1つは、1月10日に開会した現在の議会。閉会は2月8日だ。この次の議会は2月20日から3月29日までの会期が予定されている。それ以降の議会は4月開会となるため、メイ首相は現在の議会進行中、あるいは次回の議会で承認を獲得しなければ、宣言した期限通りにEUとの交渉を始めることができない。

 注目の審議はどう進むのか。下院はすんなりと通る可能性が高い。50条の行使について、最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首も「ブロック(阻止)しない」と明言している。

 当初はEU残留を支持していた議員も、多くが「国民投票の結果を尊重する」としている。離脱スケジュール案の承認を既に得ていることもあり、大きな障壁とはならなそうだ。

 ただし、上院での審議は課題だ。上院では、与党である保守党の議席数が過半数に達していない。労働党の中には残留支持派がおり、法案が否決される可能性も残っている。その場合は離脱交渉の開始が4月以降にずれ込む恐れもある。一方で、上院は非公選制で、議員の任期は終身であるため、「下院の意思を議会の意思とすべき」という声が強い。このため、上院が50条の行使を阻むことはないと見られている。

猛反発するスコットランドの承認は不要

 議会承認の必要・不要に加えて焦点となっていたのは、地方政府議会の承認が必要かどうかだった。連合王国である英国は、イングランド以外に、スコットランド、北アイルランド、ウェールズのそれぞれで自治が進んでいる。

 伝統的に、これら地方政府の権限に影響を与えかねない法律を中央の英国議会が成立させたり改正したりする場合は、地方政府議会に承認を求める措置「スーエル慣習(Sewel Convention)」を取ってきた。今回のEU離脱は、スコットランドの中心産業である漁業に影響を与える可能性などがあるため、スーエル慣習に基づいて地方政府議会から同意を得る必要があるとの指摘もあった。

 しかし、今回の判決で、「政府は地方政府議会の同意を得る必要はない」との判断が下された。EU離脱は法改正を伴うものではない、というのがその理由だ。

 この結果、承認を得るべくスコットランド議会を説得する必要はなくなった。同議会の与党であるスコットランド民族党(SNP)はEU離脱反対派が多い。スタージョンSNP党首も、メイ首相の強硬なEU離脱方針に反発する姿勢を見せてきた。

 それでも、離脱後に生じる反動を考えると、スコットランド住民の反発を抱えたままの交渉入りは大きな不安材料となる。実現性は全く未知数だが、スタージョン党首はスコットランド独立を巡る2度目の住民投票を実施するようさらに促す可能性もある。

 今回の判決により、離脱交渉の「3月」開始はメイ首相の公言通りに進みそうだ。しかし、一連の裁判によって、メイ首相が離脱計画の全てを政府のコントロール下で進めるのが難しくなったのは間違いない。1月17日のEU離脱に向けた演説で、EU離脱交渉によってまとめる最終案について「議会の承認を得る」と表明せざるを得なくなった。最終案が議会の承認を得られなければ、英国の政治は不安定な状況が続く。

 ようやく、離脱交渉のスタートラインに立てる見込みが立ったメイ首相。今週1月27日には米国でトランプ新大統領との首脳会談を予定している。その議論の多くは離脱後の米英関係を想定したものとなる見込みだ。