1泊8万円の「星のやバリ」は空中に浮かぶ!?
海外に進出した星野リゾートは第三国観光にも注力し始めた
星野リゾートは、1月20日、インドネシアのバリ島に「星のやバリ」を開業した。「星のや」ブランドとしては、初の海外進出となる。
「星のやバリ」の正面玄関。現地の文化が感じられる独特な彫刻が施されている
デンパサール空港(バリ国際空港)から内陸に向かい、車で70分。森で覆われた3ヘクタールの広大な敷地には、30の客室がある。そこに面してプールが運河のように流れており、宿泊客はいつでも自由に泳ぐことができる。
渓谷の斜面に作られている「カフェ・ガゼボ」(写真左)。右はその内部の写真で、眼下に広がる木々の上に浮かんでいるような感覚を味わえるという
客室以外の共有部分にも特徴を持たせた。客室から離れた場所にある「カフェ・ガゼボ」は、鳥かごのような個室だ。渓谷に面してばらばらに配置していて、周囲が木々に囲まれた、空中空間となっている。大きめのソファーがあり、飲み物や軽食を楽しめる。
若い女性に人気のオイルを使ったマッサージを受けられるスペースや、1日2回無料でヨガが体験できる施設も用意した。
宿泊料金は、1泊1室で900万ルピア(約7.6万円、税金・サービス料込み)からとなっている。
広大な敷地には30の客室が並ぶ。各客室に面してプールが運河のように流れており、宿泊客はいつでも自由に泳ぐことができる
星野リゾートの星野佳路代表。工期の遅れにも見舞われたが、無事に開業にこぎつけ、安堵の表情を見せた
開業に先立って行われた1月19日の記者会見では、ほっとした表情を見せる星野佳路代表の姿があった。それもそのはず。星のやバリの開業を発表したのは2013年で、当初は2014年にオープンする予定だった。数々の困難を乗り越え、当初予定より2年以上延びてようやく開業にこぎ着けたからだ。
同社にとって初めて海外で建築を手掛ける案件で、設計図通りに工事されないといった事態に見舞われ、工期が想定以上に遅れた。「海外での工事がいかに大変か、学びがあった」と星野代表は振り返った。
現地スタッフの意欲を高める
星のやバリのサービスは、これまで星野リゾートが築き上げてきた手法を踏襲している。
同社は昨年7月、東京・大手町に「星のや東京」を開業した。その際に強調したのが、これまで培ってきた「マルチタスク」というスタッフの働き方だ。1人のスタッフは、客室の清掃や接客など複数の業務をこなす。これは、欧米のホテルで、例えば客室清掃の担当が、それだけを任せられているのとは対照的だ。
また、お客と施設の関係も特徴的だ。欧米型ホテルが顧客優位のサービスであるのに対して、星のや東京では主人と客が対等な関係にある。顧客の要望にすべてこたえようとするのではなく、主人の考えで顧客に合ったサービスを提供していくという「おもてなし」を重視している。
星のやバリでも、現地のスタッフには、こうしたマルチタスクやおもてなしの手法を教育した。「スタッフを労働力として見るのではなく、(サービスの)クリエーターとして見ている。接客することの楽しみ、喜びを感じてもらい、モチベーションを上げていけば、集客や顧客満足度につながる」と星野代表は話す。
海外では“挑戦者”
今回のバリへの進出は、同社が海外での知名度を上げていくための試金石ともなる。
インドネシアのバリ島は、世界中から年間400万人以上が訪れる有数のリゾート地だ。国別に来訪者を比べると、2016年11月時点で最も多いのがオーストラリア(99万4000人)で、次に中国(88万6000人)が続き、日本からの渡航者数は21万5000人と3位だ。
日本では「星野リゾート」の知名度も向上してきたが、海外市場では後発だ。国内では宿泊者の6割を外国人が占める施設も出てきてはいるものの、海外では“挑戦者”であることに変わりはない。そのため、外国人旅行客を第三国で受け入れる、いわゆる「第三国観光」への注力は欠かせない。「まずはアジアの中でしっかり集客できる体制を取り、将来的には欧州や米国からの集客力も付けていきたい」と星野代表は意気込む。
星のやバリの初年度の稼働率は35~40%程度と予測している。3年後の目標は8割以上で、採算のラインである6割を十分に超える水準を目指している。
バリでの開業を弾みに、さらなる海外展開も見据える。「色々な投資家と話して、台湾や中国からも(運営の)話をいただいている。おそらく3~5年の間に数件、日本の外で運営できるのではないか」と星野代表は話す。
一方、今年は国内施設についても、話題が多い1年になりそうだ。
4月には、静岡・伊東にあった施設を改築して、温泉施設「界 アンジン」をオープンする。また、同じく春には北海道・旭川の「旭川グランドホテル」が、星野リゾートの運営の下で、開業する。11月には、長野・大町温泉にある「界 アルプス」がリニューアルオープンの予定だ。
1月20日現在、星のやバリを含め国内外で37施設を運営する星野リゾート。日本人に限らず、外国人との接点を増やせるかどうか。今年は今後の同社を占う1年となりそうだ。
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