最初から「水と油」だった2人

 買収してから2年経過しても伸び悩む米国事業に対して、両者の間で意識にズレが生じたとしてもおかしくない。当事者である佐野氏からすれば投資期間であっても、穐田氏からすればそろそろ回収時期と考えていたようだ。

 なかなか思うような結果が出せない米国事業の不満からか、穐田氏が推し進める多角化事業が槍玉に上がった。佐野氏から見れば、穐田氏は本業のレシピサービスの海外事業についてはシビアな一方、レシピと関連のない国内のM&A(合併と買収)には積極的な穐田氏の姿勢に納得がいかなくなったということかもしれない。

 実際、穐田氏は社長就任以来、M&Aを加速してきた。知育アプリ事業、ベビー事業、電子出版事業、ウェディング事業と投資を加速。社内からも「レシピとどう関係があるのか」と疑問の声が多かったのも事実だ。

 「インキュベーション的な意味合いがあるとはいえ、あまりにレシピ事業とかけ離れた事業が多かった。会員事業についても伸び率が鈍化し、ここ数年抜本的な機能強化は見られていない」(SMBC日興証券の金森都シニアアナリスト)と指摘する声もある。2015年10月には穐田氏自らが社長に就いて、求人メディアを運営する「クックパッド・ジョブ」も立ち上げている。

 穐田氏はもともとベンチャーキャピタル出身。経営者として以上に、投資家としての評価が高い。当然、闇雲に投資しているわけではない。

 穐田氏が進めるM&Aは、クックパッドのノウハウを注入し、事業を軌道に乗せている例も多い。例えば、2015年5月に子会社化したみんなのウェディング。結婚式場の口コミサイトを運営する同社には、クックパッド執行役員の石渡進介氏を社長に据え、目下事業を拡大中だ。

 クックパッドの社是ともいえる「ユーザーファースト」を事業のコアにし、エンジニアもクックパッドから出向。サイト同士の相互誘導といった容易な”シナジー”を創出するのではなく、クックパッドで培ったノウハウを惜しむことなく注入している。今期営業利益は落としたものの、売り上げは堅調に伸びている。当の石渡氏は佐野氏も穐田氏とも旧知の仲だ。

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