期待の米国事業は伸び悩み

 今回、佐野氏ら4人の株主が提案した書面には、「基幹事業である会員事業や高い成長性が見込まれる海外事業に経営資源を割かず、料理から離れた事業に注力するなど中長期的な企業価値向上に不可欠な一貫した経営ビジョンに大きな歪み」が出てきたと、現経営陣への批判を強めている。

 問題が表に出てきたのは2015年11月だ。11月27日に行われた同社取締役会で、「経営上の事業戦略の選択肢について精査・評価を行うため」の特別委員会を設置することを決議した。この時点で、佐野氏と穐田氏の歩み寄りがうまくいかず、第三者に判断を仰ぐに至った。

 株主提案では、「会員事業と海外事業」に資源を割かず、「事業の多角化に注力」とある。会員事業は有料のプレミアム会員の増加率こそ鈍化してはいるものの、売り上げや利益は順調に伸びている。おそらく、「佐野氏自身が中心となって進めている海外事業に対して、現経営陣の資源投下や経営戦略に対する不満が大きかったのではないか」と関係者は語る。

 海外事業は、佐野氏が社長を穐田氏に引き継いだ最も大きな理由でもある。2012年4月に佐野氏自らが穐田氏を指名し、社長の座を譲った。一方、自身は生活の中心を海外に移し、海外事業に注力し始めた。

 その結果、2013年12月に、スペインのポータル(玄関)サイト運営のイティス・シグロからレシピサイト「Mis Recetas」事業を取得。2014年1月には米国で月間利用者が100万人いるレシピサイト「allthecooks」を運営する企業を買収した。同年4月にはインドネシアのレシピサービス会社を子会社化することも発表、その後ユーザー数を拡大させている。

 現在、海外だけで月間利用者数は1682万人となっているが、注目したいのは英語圏でのユーザー数だ。英語圏の月間利用者数は60万~100万人の間で横ばい。期待していた米国市場が予想以上に苦戦していることがよく分かる。

言語別ユーザー数
言語別ユーザー数
クックパッドの言語別月間利用者数の推移。全体としては拡大基調にあるものの、英語圏でのユーザー数は伸び悩む(グラフ下部のオレンジ色部分)。同社決算資料より作成
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 佐野氏は、2012年の退任時に「日経ビジネス」の取材に対し、米国での可能性について次のように述べている。

 「米国では、肥満や糖尿病の人口が増え、健康的な食生活への関心が高まっています。(中略)食の成熟市場でクックパッドは毎日の料理を楽しくするようなサービスを提供していきたい」

 米国でのサービス拡大の可能性を信じていたことがうかがえる。

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