宅配最大手のヤマト運輸がLINEと提携して新サービスを始める。当面は利便性の向上を図るが、狙いはそれだけではない。荷物情報のデジタル化を進めて、宅配便のオペレーションを抜本的に変えようとしている。
1月15日、新サービスの会見で概要を説明したヤマト運輸の長尾裕社長(左)とLINEの出澤剛社長(右)
1月20日、クロネコヤマトの宅急便が誕生して40周年を迎えた。この1日前、ヤマト運輸はある新サービスを始めた。無料対話アプリ大手のLINEと提携し、宅配便の配達予定を事前に知らせたり、荷物の受け取り時間や場所を変更できたりするサービスだ。
利用者はまず、ヤマトが展開する会員サービス「クロネコメンバーズ」に登録する。その後、LINEにあるヤマトの公式アカウントと、クロネコメンバーズの「クロネコID」を連携させると、LINEのトーク画面から「お届け予定メッセージ」や「ご不在連絡メッセージ」などが届く仕組みだ。
クロネコメンバーズの会員数は約1300万人。利用率は開示していないが、これまでは、会員が登録したメールアドレスやヤマトの専用アプリなどを通して、荷物の配送予定を通知するほか、受け取り場所、時間の変更などを受け付けていた。今回、LINEと提携した狙いについて、ヤマト運輸の長尾裕社長は「(ヤマトの)アプリでもプッシュ通知で荷物の情報を届けていた。けれど使用頻度ではLINEの方が身近。最も身近なコミュニケーションツールであるLINEと宅急便を融合させ、より親しみやすい宅急便に進化する」と語った。
宅配便が届く前には利用者のLINEにメッセージが入り(左)、不在時にも連絡が届くようになる(右)
送付先の住所を知らなくても荷物が送れる?
当面は、利用者に荷物の配達時間を知らせたり、受け取り時間や場所の変更をLINE経由で可能にしたりする。だがゆくゆくは、消費者が「荷物を送るシーンでもLINEを活用していきたい」という。
例えばこれまで手書きだった送り状についても、LINEを活用して簡単に作成できるようにする。LINE上で作成した送り状を、ヤマトの直営店やコンビニエンスストアの店頭端末、集荷に来たセールスドライバーなどが持つ端末にかざすと、簡単に送り状が印字できる。利用者はわざわざ手書きで送り状をつくる必要がなくなるわけだ。さらに「LINEでつながる相手に対して、住所を聞かなくても荷物を送れる仕組みも整えるつもり」(長尾社長)という。LINE仲間にちょっとしたプレゼントを送りたいと思っても、現段階では住所を聞かなくてはならない。その手間なく、スマートに結婚祝いや出産祝いなどが送れるようになれば、確かに利便性は上がるはずだ。
長尾社長は「今回の新サービスでどのくらいクロネコメンバーズを増やしたいという具体的な目標はない。まずは満足度を高めることに主眼を置く」と語る。ネット通販などをよく使う若年層にとって身近なコミュニケーションツールであるLINEを活用することで、クロネコメンバーズの加入が増えることは間違いないはずだ。
事前に荷物の到着予定を知ったり、荷物の受け取り時間や場所を調整したりすることができれば、配達の際の不在率も低減する可能性は高い。再配達が減ればコスト抑制にもつながる。ヤマト側がLINEとの提携で得るメリットは大きい。だが実はそれだけにとどまらない。同社はLINEでのサービス提供に伴い、大きな宅急便の改革を水面下で進めている。
「フルデジタル化」で宅急便が生まれ変わる
LINEでのサービス開始によって、セールスドライバーなど、荷物を届ける側のオペレーションはどのように変わるのか。長尾社長は「LINEとの取り組みだけで働き方が変わるとは思っていない」と前置きをしたうえで、考えられる可能性について次のような構想を説明した。
ヤマトは現在、新システムを構築しており、デジタル化を進めている。今回のLINEとの取り組みについても、預かる荷物の情報について、LINEのアプリ内で完結するため、荷物の情報のデジタル化を進めやすくなる。
これまでは荷物と同時に届く紙の伝票を見ながら、それぞれの支店が工夫を重ねて荷物を仕分け、セールスドライバーは経験に沿って効率的な配送ルートを考えてきた。だがデジタル化が進むと、実際の荷物がヤマトの支店に届く前に、今日はどこ向けの荷物がいくつ支店に届くのかを把握できるようになる。支店では荷物が届く前に、仕分け作業の準備やセールスドライバーの配送ルートを決めることも可能になる。つまり荷物の情報がデジタル化されればされるほど、「配送オペレーションが抜本的に変わる」(長尾社長)。
既にヤマトでは、荷物の情報をデジタル化し、最も効率的な配送ルートを作成する実証実験を進めている。セールスドライバーはこれまでのように経験に頼らずとも、タブレット端末に表示されるルート通りに荷物を運べば、効率的に配送作業を終えられる。配送データが蓄積されれば、日中不在がちの家には夕方以降に荷物を届けるようにするなど、利用者一人ひとりの都合に合わせたきめ細やかな配送サービスが実現できるようになる。
デジタル化がヤマトの宅急便サービスを大きく変える。その背中を押すのがLINEの役割だというわけだ。
ネット通販の拡大に伴い、ヤマトなどの宅配各社は日々、増える荷物と格闘している。「お取り寄せ」のようなハレの日消費ばかりでなく、日用品や食料品をネット通販で買うスタイルが定着して久しい。その結果、宅配各社は消費の波の影響を、以前にも増して大きく受けるようになっている。
事実、2014年4月の消費増税前には駆け込み特需が起こり、ネット通販各社は売り上げを伸ばした。だがその陰で宅配各社は、増える荷物に対応しきれず、各所で配送遅延が発生したのだ。2017年4月に予定されている消費増税でも、同じような現象が起こりかねない。
トラック運転手や配送スタッフなどの人手不足に苦慮する中、年々増える荷物をいかにさばくのか。ヤマトはこの解決策を、フルデジタル化に託した。LINEを活用したサービスを通して、いかに荷物情報のデジタル化を進めるか。今回の新サービスは、実は配送オペレーションの効率を高めるカギをも握っている。
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