大統領になってすぐ、トランプ氏は核実験やミサイル実験のペースを速める北朝鮮の問題に直面したが、その後のリアクションは北朝鮮との対立をかつてないレベルまでエスカレートさせた。適切な軍事オプションが欠如しているにもかかわらず、軍事行動の可能性をはばかることなくつぶやいている。戦争が起きる可能性は低いが、自分が助長している緊張関係をうまく管理できるかどうかは定かではない。
周辺を見ても、韓国の文在寅大統領との関係は悪化している。貿易に関して中国から譲歩を引き出そうとしているが、一方で北朝鮮での協力を求めており、その効果を減衰させている。
国連制裁を中国が支持したのは平壌に圧力をかけるという点でポジティブだが、それが北朝鮮の行動を変える可能性は低い。トランプ大統領は最終的に北朝鮮が核保有国になることを認めざるを得ないかもしれない。だが、その決定には彼がいまだ見せたことのない忍耐と戦略的思考が必要になる。
世界各国の首脳にとって、トランプ大統領の誕生によってある種の難題に直面している。不人気なトランプ大統領と近いと思われることなく、そういった国々に必須と言える米国との関係を維持できるのかどうか、という問題だ。
安倍首相はトランプ大統領と親しくなる道を選び、日本に招待する前にトランプタワーやワシントン、(トランプ氏の別荘である)マル・ア・ラゴに足を運んだ。中国に対する不信感や北朝鮮への懸念を共有したことで二人は絆を深めた。もっとも、貿易における米国と中国の緊張がエスカレートした場合、あるいは米国でトランプ大統領の人気が大きく下がれば、両国との貿易に依存している日本は試練に見舞われる可能性がある。
アジアの外に目を向けると、トランプ大統領はイランの核合意からの離脱を望んでいるが、米国企業や欧州の同盟国から異論が上がる中で、公約を実現するかどうか中途半端な状況に置かれている。
またトランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都と承認、公約だった大使館移転を実行に移すと発表した。この決定に実際のメリットはほとんどないが、反トランプのコミュニティを糾合させることには成功している。一方、選挙期間中は孤立主義的な傾向を見せていたが、アフガニスタンやイラクにおける米軍のプレゼンスを維持している。
恐らく、最も重要なのはトランプ大統領が多くの政治課題で米国のリーダーシップを放棄したことだ。気候変動に対する国際的な枠組み、パリ協定からは離脱を発表した。米国と世界にとって重要な外交ポストを埋めることも拒否している。
貿易関係の作り替え、その成否はまだら模様
貿易はトランプ大統領が自身と貿易を支持するエリートを分けるために活用されたテーマだった。NAFTA(北米自由貿易協定)や中国との貿易に疑念を持つ労働者との同盟関係を可能にしたのも貿易だ。
だが、「米国の貿易を作り替える」という公約は根本的な試練に直面している。大半の共和党議員や企業は自由貿易を支持しているためだ。貿易に関しては、トランプ大統領の「味方」が制約になっている。
就任式の直後に離脱したTPP(環太平洋経済連携協定)はトランプ大統領が一方的にできる簡単な決断だった。米国市場へのアクセスを期待していた日本や他のアジア諸国との関係は損なわれたが、トランプ大統領は米国で政治的代償をほとんど払っていない。
もう一つの公約、NAFTAの再交渉は状況がかなり複雑になっている。交渉は昨年9月に正式に始まったが、進展はかなりスローだ。今年7月にメキシコ大統領選があるため交渉を急ぐ必要があるが、メキシコとカナダが受け入れ不可能な提案を続けている。
2018年のリスクとして考えられるのは、トランプ大統領がNAFTA離脱の意思を発表することで再交渉のプロセスを大混乱に陥れる可能性だ。あくまでも交渉の駆け引きであり、実際にNAFTAから離脱するかどうかは疑っているが、離脱宣言は果断で劇的な決断という面でトランプ大統領の直感に訴えかけている。仮に離脱を宣言すれば企業や議員の抵抗は激しくなるだろう。
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