「完全に希望を打ち砕く内容」

 産業界やEUが繰り返し英政府に要望していた単一市場への加盟維持を、メイ首相は真っ向から否定した。今回の演説は、「企業の希望を完全に打ち砕く内容」(ある大手欧州銀行のアナリスト)と見る向きが多い。

 「ある程度覚悟はしていたが、やはり企業には厳しい展開だ」。メイ首相の演説を聞いた後、英国に拠点を置く日本企業の担当者は肩を落とした。

 EU単一市場からの離脱は、欧州ビジネスを英国で統括する企業の拠点戦略に影響を与えるのは間違いない。現状は、単一市場域内のモノの貿易に関税はかからない。これを利用し、自動車メーカーをはじめとする多くの製造業がEU全域を一体のものとしてサプライチェーンを構築してきた。

 演説の中で、メイ首相は自動車や金融など一部の産業はFTA交渉の中でこれまでの条件が維持される可能性があると述べたものの、今後の展開は全くの白紙。交渉次第で条件が変わる可能性もある。

 金融界への影響も避けられない状況だ。単一市場の一環として、銀行は、英国で免許を取得すれば欧州全域でビジネスを展開することが可能だった。これも困難になる可能性が高い。昨年の後半から、「2017年に入れば英国から大量の金融機関が欧州大陸に拠点を移転する」との見方が絶えない。今後これが現実となる可能性がある。

 もっとも、英国政府も企業が英国から大量に去ることを望んではいない。そのため、法人税が非課税となる特区を創設するなど、様々な誘致策を用意するとフィリップ・ハモンド財務相は明言している。しかし、現時点では具体的な政策は何も明らかにしておらず、企業の不安を和らげるには至っていない。

 メイ首相は今回の方針を基に、予定通り2017年3月に離脱交渉を始め、2019年3月までに離脱を完了させるとしている。

 もっとも、計画通り交渉を始められるかについては不透明だ。その1つが、昨年11月にロンドンの最高裁判所にあたる高等法院が下した判決の最終結論だ。高等法院は、政府がEUに対して離脱を通知するには、「英国議会の承認を得る必要がある」との見解を示し、「議会の承認は不要」とする政府の考えを退けた。政府は高等法院の判決を不服として上訴。その最終結論が1月下旬頃に出る予定だ。

 既にメイ首相は下院において、2017年3月に離脱交渉を開始するとしたEU離脱計画への承認を獲得している。しかし、高等法院の最終結論が地方議会の承認も必要との方針を示せば、状況は複雑になる。英国のEU離脱にかねてから反対しているスコットランド民族党 の同意を取りつける必要があるからだ。同党のニコラ・スタージョン党首は、今回のメイ首相の演説に対しても猛烈に反発している。

 メイ首相は今回の演説で、EUと交渉して作る最終案について上下両院の承認を得るとも明言した。ただ、これが否決された場合にどうするのか、という質問に対して明確には答えなかった。

 演説後、週明けから下落が続いていた通貨ポンドは対ドルで急反発した。不透明だった計画がある程度クリアになったことが理由とされる。それでも、英国に中核拠点を置いて欧州でビジネスをする多くの企業にとって、今年が波乱の1年となるのは間違いない。

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