若い仕掛け人の存在

 2008年にニューヨークの視覚芸術学校を卒業した後、トランプ氏の会社に映像制作担当として入社した彼は、トランプ氏のYouTubeのアカウントすら開設されておらず、ソーシャルメディアの使い方があまりにも「なってない」ことを問題視し、トランプ氏に「あるべき使い方」を提案した。それをきっかけに、2011年からトランプ氏のソーシャルメディア担当を務めている。

 マッコーニー氏が取り組み始めた当初、トランプ氏のツイッターのフォロワー数は約30万人だった。それが5年間で40倍以上になった。フェイスブックでは10万「いいね!」を1000万「いいね!」に増やした。

 トランプ氏がソーシャルメディアの価値を認めたエピソードの一つに、2014年のALSアイスバケツチャレンジがある。ALS(筋萎縮性側索硬化症) の研究支援の啓発を目的として、バケツいっぱいの氷水をかぶる動画を仲間を指名しながら順番に回していくアレだ。

 何度も指名を受けていたものの、その気にならなかったトランプ氏だが、マッコーニー氏の説得で動画を撮影。ミス・ユニバースとミスUSAを従え、トランプブランドのミネラルウオーターでバケツをいっぱいにし、一気にかぶる動画を公開した。

Donald Trump ALS Ice Bucket Challenge

 その結果、何が起きたかというと、びしょ濡れになったトランプ氏の様子から、かつらだと多くの人が思っていた彼の「髪の毛」が、本物であることが証明された、と大きな話題になったのだ。瞬く間に再生回数は130万回を突破(選挙後の現在は560万回を超えている)。トランプ氏は大いに喜んだと言う。対立や批判だけでなく、面白がられるようなコンテンツも積極的に投入している。

 世間に注目されたマッコーニー氏のアイデアに、インスタグラムの15秒動画がある。それまでの政治メッセージ映像と言えば、スタジオなどできちんとした照明を使い、視覚的にもクオリティーの高いビデオを撮るというのが常識だった。

 しかしソーシャルメディアにはもっとカジュアルな雰囲気で分かりやすくシンプルなものが合うとマッコーニー氏は主張。複雑なテーマであっても15秒という長さにあえてこだわり、トランプ氏が自分のオフィスの机から、カメラに向かって語りかける動画を毎日数本ずつ撮影して公開していくという手法を取った。

 見やすく、理解しやすく、シェアもしやすいとあって、公開直後から大きな反響を得て、その後、トランプ氏のSNSコンテンツに欠かせない存在として定着した。

日本がトランプ氏から学ぶべきこととは

 常に話題の中心にいる、というのがトランプ氏のSNS活用の重要な方針だったと考えられる。不動産王のトランプ氏にとっては、そこがまさにベスト・ロケーションと見たのだろう。たとえそれが下世話な話題でも、大統領らしくないと言われようとも、これまでの外交方針や歴史を無視しているとしても、認識が間違っていたとしても、お構いなしだ。それは「目を引く」という意味においてこれまでのトランプブランドと変わりないと言えるのかもしれない。

 日本のメディアは今回の選挙戦で、最後までトランプ氏を真面目に分析する様子がほとんど見られなかった。だが少なくともSNS活用においては、トランプ氏の取り組みから得られる知見は数多い。

 2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する。トランプ新政権のキーパーソンとなる人物たちの徹底解説から、トランプ氏の掲げる多様な政策の詳細分析、さらにはトランプ新大統領が日本や中国やアジア、欧州、ロシアとの関係をどのように変えようとしているのか。2人のピュリツァー賞受賞ジャーナリストによるトランプ氏の半生解明から、彼が愛した3人の女たち、5人の子供たちの素顔、語られなかった不思議な髪形の秘密まで──。2016年の米大統領選直前、連載「もしもトランプが大統領になったら(通称:もしトラ)」でトランプ新大統領の誕生をいち早く予見した日経ビジネスが、総力を挙げてトランプ新大統領を360度解剖した「トランプ解体新書」が発売中です。ぜひ手に取ってご覧ください。