2017年1月20日(現地時間)、ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任する。トランプ新政権のキーパーソンとなる人物たちの徹底解説から、トランプ氏の掲げる多様な政策の詳細分析、さらにはトランプ新大統領が日本や中国やアジア、欧州、ロシアとの関係をどのように変えようとしているのか。トランプ氏の半生解明から、彼が愛した3人の女たち、5人の子供たちの素顔、語られなかった不思議な髪形の秘密まで──。日経ビジネスが、総力を挙げてトランプ新大統領を360度解剖した「トランプ解体新書」が発売されました。今回の記事は、「トランプ解体新書」にも収録したものです。本書もぜひ手に取ってご覧ください。
時代時代でメディアが重要な役割を果たしてきた米大統領選挙。その主戦場は、かつての新聞からラジオへ、そしてテレビに移り、ついにソーシャルメディアになったと米ロサンゼルス・タイムズ紙は書いている。そんなソーシャルメディアで、トランプ氏はほかのどの候補者よりも強い発信力を持ち、注目を集めてきた。

圧倒的なSNS発信力
トランプ氏は、選挙結果が明らかになった後に受けたテレビのインタビューで、自らのSNSアカウントで大量のフォロワーを獲得していたことによって、既存メディアなどから悪意のある情報が流された時でも、自らの主張を数多くの人たちに直接伝える「反撃の手段」を持っており、それが有効に機能したと述べている。
彼はSNSを「今流のコミュニケーションのやり方(modern form of communication)」だと表現し、自らの重要なコミュニケーション手段に位置付けてきた。既存メディアの多くが反トランプだったという事情も、SNSを積極活用した背景にある。
政治献金ではクリントン氏がはるかに優位だった。ロイター通信によると、クリントン氏が集めた資金は7億1800万ドル。対するトランプ氏は2億9200万ドルと半分にも満たなかった。それもあってか、これまでの大統領選では候補者の多くがテレビ広告に多額の資金をつぎ込んできたが、トランプ氏が投入した資金はほかの候補者と比較しても少なかった。
その一方で、トランプ氏のSNSにおける影響力はどの候補者と比較しても抜きん出ていた。ツイッターのフォロワー数は選挙の時点でトランプ氏が約1300万人、対するクリントン氏は約1000万人だった。トランプ氏のフェイスブックやインスタグラムなどSNSフォロワー総数は約2800万人にも達していた。
選挙戦中、トランプ氏とクリントン氏は、発信数にはさほど違いがなかったが、エンゲージメントと言われるネット上の反応・反響は圧倒的にトランプ氏が勝っていた。つまり、SNSでの注目度や話題性でほかの候補を圧倒していたということだ。
では一体、トランプ氏はどのようにして注目を集め続けたのか。
注目を集める仕組みはこう作った
トランプ氏を説明する時に、必ずと言っていいほど使われるのが「過激な発言」という表現であり、これこそがSNS上で彼が注目を集め続けた重要なキーワードである。
その時その時に注目されたイシューや旬の話題にいち早く極端なコメントをする。
エボラ出血熱が話題になった時は「オバマ大統領、手遅れになる前にエボラ熱の国からのフライトを止めろ」と名指しで言ったり、共和党の指名争いの際にはジェブ・ブッシュ氏に対して「ホワイトハウスにまたブッシュが必要なのか? もう十分だろう」とツイートしたりした。
話題は政治テーマに限らない。
アリアナ・ハフィントン氏が離婚し元夫がゲイだったと伝えられたことを受け、「(彼女は)見た目も内面も魅力がなく、前の旦那が彼女の元を去って男に向かったのはよく理解できる。いい決断だ」と投稿し、また「ヒラリーは夫さえ満足させられないのに、どうして米国を満足させられるなんて思えるんだ?」とトランプ氏のサポーターがツイートしたものをトランプ氏は自分のフォロワーに向けてシェアしたりもした(これは後にスタッフの一人がやったと発表され、ツイートは削除された)。

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